ケ・セラ・セラ


ピーピー!ピーピー!
スマホのアラームが朝を告げる。

教師というのは忙しく、定時で帰るなんて滅多にないし、土日返上なんて当たり前の職業だ。

今日は土曜日。
いつもならまだ金曜日の仕事が残っており、休日出勤して授業の準備をするのだが、昨日の晩にぎりぎりまで残って終わらせてきたのでゆっくりできるにもかかわらず、癖というのは恐ろしいもので昨日は寝る前に目覚ましをセットしていたらしい。


「う、るさ…」
「いつまで寝ている。もう11時だ、いい加減起きろ」

アラームに交じって聞こえた声に名前は一気に目が覚めた。なぜなら自分は1LDKのアパートで一人暮らしであり今現在恋人はいないので、この部屋で男の声がするのはおかしい。
しかも、その声の主は自分がよく知る人物で、アラームよりもよっぽど目覚めが良い。


「義勇!?なんで部屋にいるの?!私、玄関の鍵締めてたよね?!」
「電話してもラインして反応がないから様子をみてきてほしいといってお前の母親から鍵を渡された」

そういって鍵を見せるこの男は自分と同じ学校で体育教師をしている冨岡義勇で、名前は冨岡の手から鍵を奪うと頭を抱えた。

「何でお母さんは勝手に鍵をわたしちゃうかな…」
「名前は自己管理ができないからだろう」
「自己管理ぐらいできてるよ、いい大人なんだし!もー、とりあえず生存確認できたんだから家から出て行ってよ。私、今日合コンだから色々準備しないといけないの!」
「合コン?」
「そっ!合コン!昨日大学時代の友達から誘われてさー。前の彼氏と別れてもう2年経つしそろそろ探さないと」

だからさっさと出て行ってーと背中を押すが、冨岡はその場から動こうとしない。

合コンそんなところ、行くだけ無駄だ」
「うるさい!無駄かどうか行ってみないとわからないでしょ!」

いい加減本当に出て行って!いえば冨岡は漸くアパートから出ていった。





「名前が好きな食べ物はハンバーグ、ソースは大根おろしが入った和風ソースを好んで使う。好きな映画はSF系。映画館で見るときは必ずタコスとカルピスを売店で買ってから見る。初恋の相手は幼稚園の輝利哉先生。小学2年の時に初めてクラスの男子に告白したが降られる。高校生のときにはじめてできた彼氏には胸が小さいという理由で浮気され捨てられた。大学で…」

「ちょっ!」

何をいきなり人の情報を公開するなんて。しかも後半の恋愛事情に関しては冨岡に話は覚えはない。恥ずかしい過去まで口外され、名前は思わず冨岡の口を手で塞ぎ情報漏洩を防ごうとする。

すると冨岡は口を押さえる手を外しながら赤面する名前をジッと見つめる。

「俺以上に、お前のことを知ってる男なんていない。なのになぜ合コンに参加して、他の男ばかりに目を向ける…」
手の平に感じた柔らかい感触。
冨岡が名前の手のひらにキスをしていた。

「俺ではだめなのか?」
「っ、」

肩を押され後ろの壁に押し付けられる。
すがるような目をした冨岡が名前にキスをした。荒く重ねられたキスにギュ、と目をつぶる。
唇を舐められ、わずかに開いた隙間から冨岡の下が口内に入ってくる。
「ふ、ぅ…」

逃げても絡み取られ、息が苦しい。
どうにか突っぱねたいのに押し返す手に力が入らない。


知らない、こんなに饒舌な義勇も、熱を帯びた獣のような目をした義勇も。
知らない一面に怖さを感じてか名前の目からポロポロと涙がこぼれる。その涙に気づいた冨岡はハッと我に返ったように名前から離れた。

「おれは、」
やってしまったと言わん顔。ばつが悪そうに視線を逸らすと何か言おうと口を開く。しかし言葉はでてこず、それを数度口返したところで名前は小さく「帰って」といった。



もう何もかもぐちゃぐちゃだ。
なんでキスしたのか。
義勇は私のことが好きなか。


聞きたいことは山ほどあるのに、それを口にするともうもとには戻れない。
「なんでよ、ばかぁ…」

しゃくりあげながら出た言葉に冨岡は小さく「すまない」といってアパートをでていった。

(20220123)



短編一覧 // Main Top // Top



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -