金平糖のように/煉獄視点


打ち込む角度を変えながら縦横無尽に木刀を打ち込み続ける。
杏寿郎から絶え間なく打ち込まれる木刀を受け止め、時には受け流しながら自分が打ち込む機会をうかがっている。

ついこの間までは打ち込みを受け止めることすらできなかったとは思えぬ成長に杏寿郎は感服する。愛弟子の成長は師にとってなによりの恩返しだ。


煉獄は一度距離をとり木刀を上段に構える。
名前はその動きから上段から振り落とされるであろう刃を受け止めるべく、下から上へと木刀を振った。

しかし。
「判断が早すぎる!相手の動きは最後まで見極めろ!!」

杏寿郎は上段で構えられていた木刀は瞬時に軌道を変え、名前の脇腹に打ち込んだ。
「っう゛!!」

打ち込まれた衝撃で数歩後ろに足を下げたもののその場に留まった名前は痛むであろう脇腹を手で押さえることはせず、ジッと杏寿郎の動きを注視する。そこまで確認できたところで杏寿郎は構えを解いて打ち込み稽古の終了を名前へ告げる。

縁側で控えていた千寿朗に目配せをして名前縁側へと誘導してもらい手当を頼むと杏寿郎は使っていた木刀を定位置に戻すついでに昨日の任務先で買ったお土産を取りに部屋へ立ち寄り、再度先ほどの縁側へと戻る。



「他に痛む箇所はありませんか?」
「大丈夫、ありがとう」
「ふたりにお土産だ」
ちょうど処置が終わったところだったらしく、杏寿郎は千寿朗に小さな紙袋を渡した。


「これ、金平糖ですか?!」
「お茶を淹れてきます」
「あ!待ってそれなら私が」
「名前さんは稽古の後ですから少し休んでください」

立ち上がりかけた名前を窘め千寿朗は台所へ向かう。
仕方なさそう元の場所に座り直して名前は袋から金平糖と1粒摘まんで口に入れた。

「〜〜〜〜っ!!」
心底幸せそうな顔をする名前に煉獄は買ってきたかいがあったと表情を和らげる。
「あっ、煉獄さんもどうぞ!」
「いいのか?」
「はい!」

促されて手を出せば紙袋からコロコロと転がってくる金平糖で小山ができる。
それを崩しながらいくつか食べたところで杏寿郎は今日の打ち込み稽古の改善点の説明を始めることにした。

「今日の打ち込みだが、相手の動きに合わせ条件反射で動いても十二鬼月には通用しない。ぎりぎりまで相手の動きをみろ!だが、攻撃を体に受けても相手から目を離さなかったのは良かった!」
「はい!」

ザァ、風が通り木々が揺れる。
風に攫われた髪を耳にかけながら金平糖を口へと運ぶ名前の姿に、杏寿郎は無意識のうちに息を呑んだ。ジッと凝視してしまったためその視線に気づいた名前が首をかしげ訊ねてくる。

「どうかしました?」
「いや、君は強くなったと思っていただけだ!」
「そうでしょうか…?」
「あぁ!俺が保証する!」

誤魔化すように、最近感じていることを素直に話すが名前自身にはその自覚がないらしい。

「正直、初めて継子になりたいとここへ来たとき、俺は直ぐに音をあげるだろうと思っていた」

家族を鬼に食べられ孤児となった名前は縁あって煉獄家でその身を預かることになった。最初は女中として預かろうと考えていたが、名前は頑なに鬼殺隊へ入ることを希望し譲らなかった。
少し力を入れれば折れてしまうのではないかと思える肢体だ。すぐに諦めるだろうと思っていたが、名前は耐え抜き最終戦別も生き残り一隊士となった。



「名前、俺はこれから先も煉獄家にいてほしいと思っている」
「もちろんです!継子として煉獄さんについていくのは当たり前です!」


「……本当に解っているのか?」
思わず漏れた苦笑は落胆からか。

―――彼女は気づいているのだろうか、自分が初めて名前のことを名前で呼んだことに。
否、気づいていないからこうもあっけらかんとお茶を啜っているに違いない。

千寿朗が席を外して杏寿郎はもう一度、名前の名前を呼んだ。


気づいてほしい、名前を呼んだ理由このいみに。
不器用ながらも、この胸を焦がす恋慕の炎に。

(20220121)



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