きょうじゅろう5歳その2


「これでよし!」

玉留をして糸を切ると仕上げた着物を確認する。
昨晩、かわいいかわいいと愛でていたら珍しく拗ねて部屋から追い出してされた。

さすがにあれでは生活もままならないだろうと千寿朗から昔着ていた着物をもらい、杏寿郎のために早朝からサイズ直しを試みた。


少し不格好だが大丈夫だろう。
朝餉を作る時間に間に合ってよかったと思いながら出来立ての着物を杏寿郎の部屋の前に畳んで置くと朝餉の準備のために台所へ向かった。




「おはようございます」
「おはよう」

台所には先に起きて朝餉の準備をする千寿朗がいた。
豆腐を切って鍋へいれる彼の手つきにほぅ、と名前は見入ってしまう。

「相変わらず上手ね」
名前は、正直包丁を扱うより日輪刀を扱う方が楽だと考えている。
日輪刀が仕えるなら包丁だって扱えるだろう、むしろ包丁のほうが簡単なのでは?とよく言われるが、包丁の刃を指の側に置くという行為がどうも怖く感じてしまい、彼女が切るといつも形や大きさはバラバラになってしまう。

時折、千寿朗から包丁の使い方を教えてもらうのだが、まだまだ先は遠い。




朝餉まであと30分。
槇寿郎と杏寿郎に声をかけるため中庭横の縁側と通ったとき、中庭から杏寿郎の声がした。


「ご、せ…ごひゃ…」
「なにしてるの?!」


新しく仕立てた着物を着千寿朗は素振りをしていた。
「お、はよう!これを、仕立てたのは、名前だろう!ありがとう!」
「ありがとうじゃない!」


ゼーゼーヒューヒュー、汗だくでどこを見ているのかわからない目でお礼を言ってくるが、明らかに疲弊している様子の杏寿郎から木刀を取り上げる。

「返、してほしい。あと、五千三百二十七回…」
「いつもの回数振りきれるわけないでしょう!」

身体逆向の血鬼術なので、体力もその体の頃の体力なのだ。
杏寿郎が普段行っている稽古を熟せるわけないでしょう!とコンコンと言い聞かせる。



途中、「しかし」やら「だが」と反論を唱えても「しかしじゃない!」、「だってじゃない!」と言い聞かせる。
その様子をたまたま目にした槇寿郎は、今は亡き妻の瑠火を思いだしていた。


懐かしさと恋しさに胸が痛む。
「――――っおい!酒を持ってこい!」
「は、はい!ですがもうすぐ朝餉ですよ?」
「かまわん!もってこい…」

槇寿郎の存在に気づいた##name1#は慌てた様子でそのあとを追おうとするが、荒い足音を立て自室へ籠ってしまった。

「なんだか、悲しそうじゃなかったですか?」
「……そうだな」

そういう杏寿郎の横顔も少し寂しげで、名前は元気づけたいという一心で杏寿郎の手を握った。

(20220120)



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