はじまり



良く晴れた空に浮かぶ太陽はまるで恋人の様だと思った。

少し前の任務で足に負傷を負ったのをきっかけに鬼殺隊士を退いた名前は、今現在、恋人である杏寿郎の生家である煉獄家に身を置いて、千寿朗とともに煉獄家の世話役を担っている。


杏寿郎が任務に向かったのは3日前の夕方。
そろそろ帰ってくる頃だろうと思いながら乾いた洗濯物を取り込んでいると名前の上空で一羽の鴉が飛びながらけたたましく伝令を告げる。

「負傷!煉獄杏寿郎!鬼ノ血鬼術ニヨリ負傷!至急、蝶屋敷ニ向カエ!」
――――負傷?杏寿郎が?

杏寿郎は炎柱。
当然、十二鬼月が関係している可能性の高い任務に当たることがほとんどである。


鬼の討伐に怪我はつきもであり、怪我なく戻ってくるほうが珍しい。
――――それでも。


「ただいま、名前」
いつも笑って帰ってきてくれていた。


「カァァァ!!至急、蝶屋敷ニ向カエ!」
鴉の再三の伝令に名前はハッと息をのむ。
(そうだ…惚けている場合じゃない!)

手に持っていた着物をその場に落とし、蝶屋敷への道を覚束ない足取りで走る。
(なんで、私の足は…!)

1秒でも早くたどり着きたいのに、怪我の後遺症でうまく走れない足が恨めしい。



◆◇◆◇◆



「しの、ぶ、さ…」
途中、4度ほど転んでしまい帯も緩んで着物は少し着崩れている。
名前の到着を待っていたしのぶは名前の姿をみるなり少し驚いたような表情をして口元を手で押さえた。

「こんなに擦りむいて…、一度水で洗って…」
「私のことよりきょ…、煉獄さんは!?」
つい癖で名前を呼びそうになったが訂正し、ボロボロと涙を落としながらしのぶの両肩をつかむ。



「落ち着いてください。大丈夫、命に別状はありませんから。ただ…」

震える名前の手に気づいたしのぶは自分の手を震える手に重ね、ゆっくりとした口調で煉獄の容態を教えるものの、どこか言いにくそうに口を閉ざす。


「ただ、なんですか!?」
「煉獄さ…」
「名前っ!!」

門前の騒動に気づいたのか、一人の少年が名前の側へ駆け寄ってくる。
少年は猛禽類のような大きな目に、煉獄家特有の髪で、年は5、6歳といったところだろうか。


そんな少年を前にそれまでボロボロとこぼれ続けていた名前の涙が止まり、石化する。
だがすぐに体をプルプルと震わせ怒りの形相を浮かべた。



「しのぶさん、煉獄さんはどこですか!浮気して隠し子までこさえるなんて信じられない!」
もし、彼女がまだ現役で日輪刀を帯刀していれば抜刀しそうな勢いである。
怒り心頭の彼女が言わんことがすぐにわかったしのぶは再度落ち着いてください、と促して未だ名前の隣に立つ少年の肩をつかんで名前の前へと立ち位置を移させる。



「この子がその煉獄さんですよ」




しのぶの話を割愛すると、杏寿郎は逃げ遅れた一般人を庇い血鬼術を食らってしまったらしい。
鬼の頚は斬り落としたものの、杏寿郎の体は急激に縮み今の大きさになっていたということらしい。


身体が逆行する血鬼術。
この手の血鬼術は鬼の頚を斬っても術は直ぐには解けないらしく、おそらく数日はこのままだろうということだった。

(20220120)




Main Top // Top



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -