01


杏寿郎にふたつ年の離れた名前という幼馴染がいた。
当時は煉獄家の隣に屋敷があり、その辺一帯の町医者として重宝されていたが、杏寿郎が5歳の時に名前の祖父が亡くなったのをきっかけに離れた地へと引っ越していってしまった。


煉獄は彼女のことを好いていた。
しかし、それ伝えるにはまだ互いに幼く、せめて成人したら会いにいくと約束をしたきりとなっていた。
時折、季節の花とともに送られてくる手紙だけが彼女の自分を繋ぐ唯一で、その文が杏寿郎にとっても密かな楽しみだった。



母、瑠火が亡くなり、父、槇寿郎が自暴自棄となっても杏寿郎はただひたすらに励み続けた。
人を食らう鬼を滅する。
それは代々受け継いできた使命であり、義務であり誇りである。


しかし、杏寿郎は名前と望まぬ形で再会することとなった。






「帝都付近ノ苗字病院デ鬼ガ居ル!至急、向カエェ!剣士ガ何人モ死ンデイル!」
鴉の言葉に杏寿郎は一瞬だけ目を見開いた。
鴉が告げた病院名は幼馴染の父親が営む病院ではなかっただろうか。


急ぎ任地へと向かい、最初に気づいたのは血の匂いだった。幾分か慣れた匂いだったが、ここまでひどい血の匂いは杏寿郎も遭遇したことがなく、思わず口元を手で押さえながら生存者はいないのか、隊士は…、と建物内を走り回る。

「誰かいないか!?」
転がっている死体はどれもこれもが食い荒らされており、服装から隊士や患者や看護師たちであることが分かる。


パキ、グジュ…。
奥の方から聞こえた咀嚼音に杏寿郎は刀を抜いた。


「炎の呼吸壱ノ型・不知火!」
轟音と共におくで人を食っていた鬼の頚を斬り落とす。ゴトンと鈍い音を立てて落ちた頚はゆっくり消えていく。


「……」
生存者は、なしか。
苦い思いに杏寿郎は顔を曇らせる。


鬼が食べていたのは見覚えのある男性であった。
自分が知っているときよりも少し齢をくったその人は名前の父。


きっと、名前もこの病院のどこかで死んでしまったに違いない。
やり場のない感情に唇をかんだときだ。

部屋の片隅にあった物置のドアがひとりでにあいた。
まだ鬼がいたのかと刀を構えた杏寿郎だったが、物置にいたのは血まみれの少女。

フラフラ体がぐらつきその場に倒れたその姿に杏寿郎は駆け寄り抱え上げる。
見覚えのある顔は確かにあの幼馴染で生きていたという喜びの感情と、彼女の家族を救えなかったという懺悔の感情がグルグルと渦巻いてくる。


「――――っ、う」
うめき声をあげた名前に杏寿郎はハッと息をする。
よく見れば彼女の体からも出血がある。

みるみる血の気が引いていく顔色に杏寿郎は胡蝶屋敷へと走り出した。

(20220122)



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