「エメット、何してるのですか?」

振り向くな

不意にインゴの声が後ろから聞こえた

振り向くな と

「?インゴ?」
取りあえず振り向かずにインゴに問いかけるが返事はない

「インゴ…?」
怪しく思い振り返ろうとすると後ろからドスが聞いた低い声が聞こえた
「なンデ…」
インゴとは違うその声にエメットは身体を震わせ後ろを覗こうとした
振り向くな!
その言葉はまるで脳内に響く様だった
その強い口調と声は間違いもなく本来の兄インゴのものだ
しかしそれでもいきなりのことに身体は硬直するばかり
前に進みなさい 振り返ってはいけません 引きずり込まれますよ。さぁ早く足を動かしなさい エメット!
身体に鞭打たれたかのように声が響く
エメットは必死で前に走りだした

「なンデこっち向いてクれなイんデスかエメッとねェふりムイてくだサいよォ゛」
後ろからおぞましい声が聞こえる
冷や汗が出る 服が張り付いて気持ち悪い
恐怖に胸を掻き回され吐き気がこみ上げる
道がいつしかぐにゃりと曲がった
足がもつれ転びそうになるがそれでも無我夢中に前へと進む

ずっと走るとドアがあった
いつも見ている自室のドアだ

そのドアに入りなさい

しかしそこには本来あるはずのない鍵穴が付いていた
勿論鍵などエメットは持っていない
「っどうすればいいの!?鍵なんて持ってない!」
落ち着いた声で誰かが言った
鍵は持っているでしょう。ほら手を見てごらんなさい
言われた通りに手を見るとそこには装飾が細かいおもちゃの鍵が握られていた
それには見覚えがあった
「これ、ボクとインゴの宝箱…ずっとずっと小さいころの」
二人で何かを入れていた、それが何かは思い出せないけれど
ボクとインゴの大切なものを入れていた

エメットは鍵を差し込んでドアを開けた
その瞬間腕を引っ張られた
追いつかれてしまった
腕を引っ張られ自然と向き合わせになりエメットは初めてソレを視認した
黒くてドロドロとした塊
もはや言葉など喋っておらずけたけたと不気味な笑い声をたてていた
「いっ、いや!はなして!」

【ハナ゛サ゛ナイ゛ ツレ゛デク゛】
人ならざるモノの声に恐怖が込み上げる
足ががくがく震え腰が抜けそうになる
すると後ろから誰かに抱きしめられた
「全く世話の焼ける弟ですね」

「い、んご」
後ろでエメットを引っ張るように支えていたのは本物の兄だった
インゴは黒い化物に手を向けて叫ぶように言い放った
「俺の弟に手を出すとはいい度胸だ 消えろ。残骸共」
化物は呻き声をあげてエメットから離れた
「よく頑張りましたね」
インゴがそう呟く
エメットは安心した所為か意識を失った



「ん…あ」
エメットは薄く目を開けて自室の天井を見た
隣には片割れの兄もいる
まだ朝六時程だった
エメットはゆっくりと布団をおろしタンスの引き出しを開ける
そして中をがさがさと漁り両手にギリギリ収まるくらいの箱を取り出した
「あった」
箱と一緒に仕舞われていた鍵も取り出し箱に差し込む
その鍵は夢に出てきたものと同じだった

箱の中には写真が一枚入っていた
エメットとインゴがまだずっと幼いころの写真だった
楽しそうに笑って写っている

エメットは微笑んで写真を戻して鍵を閉じた
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