┌(┌^o^)┐ | ナノ


  


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ボクの兄さんは認知症
認知症ってわかったのはつい最近
兄さんが起こした一つの行動からだった

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「ノボリ、ポケモン忘れてるよ?」
「え…あ、ぽけ、も ん」
「ノボリ?」
「…すみません、ワタクシとしたことが、」
「うん、気をつけてね」

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ありえなかった
兄さんが大切にしていたポケモン達を忘れるなんて
ボクはおかしい、と思って病院いかせた

そしたら 医者の口からは「認知症」の言葉が漏れた
信じたくなかった
もう手がつけられないって
このまま、死ぬのを待つしか

兄さんは入院することになった
日に日に記憶がなくなっていく兄さん

「おや、先生ですか?もう診察の時間ですか?」
兄さんはボクを見て言った
「ボクだよ、クダリだよ、ノボリ」
ボクがそう言うと兄さんは普段ではありえないような無邪気な笑い方をして
「先生、冗談はやめてくださいよ」
って言った
あぁ、ボクの顔も忘れてしまったんだね
「先生、見てください、この子私の弟で、クダリって言うんですよ。」
兄さんはボクに写真を渡した
ボクと兄さんが写った幼い頃の写真を
「うん、昔はノボリに迷惑ばかりかけてた」
「そうなんですよ、事あるごとに泥だらけになったりして帰ってきて、母さんをごまかすにも大変だったんです、でも可愛いでしょう?」
「うん…」
兄さんは嬉しそうに笑う
ボクのことを嬉しそうに話す

暫くして兄さんは表情を変えた
「…貴方誰ですか!私の写真を返してください!泥棒!」
兄さんはボクから写真を荒々しく奪う
「ごめん」
兄さんはボクを批難する
大声で罵倒する
「クダリさん、」
ナースが来てボクの名前を呼んだ
先生が話があるって
兄さんはナースがなんとかしてくれるらしい
ボクは先生のところへいった

「クダリさん、来てくれましたか」
先生が暗い顔をしていた
「先生、やっぱりノボリは、」
ボクが言葉を吐くと暗い声色で呟くように言う
「…もう現代技術ではどうにもできないんです、これからもずっと記憶はなくなり続けます」
「そう…」
先生は深く頭を下げて
「すみません…」
とただ一言呟いた

仕方のないことなんだって、わかってる

次の日も兄さんに会いに行った
「お兄ちゃん誰?ぼくのパパとママどこ?」
自分がオトナだということも忘れた
双子だったことも忘れた
「帰りたいよ、ここどこ?」
病院にいることだって、自分の名前だって忘れた
ついには記憶そのものがなくなった

「ノボリ」
「…………」
話しかけても返事は返ってこなかった

「ノボリ、覚えてる?ボク達が遊園地に行ったときのこと」
「……」
言葉が返ってこないのなんて承知でボクは話続けた
「ノボリがさ、お弁当作ってくれてさ、ボクも手伝ったんだ、おにぎり上手く握れなくてさ、でもノボリは上手だって褒めてくれたよね」
静かな部屋に響く声はボクのもの
「他にも卵焼きと、ウインナー焼いたり…あと、あとは…覚えてない、や」
「…プチトマトや、ハンバーグも、つ くって」
兄さんが言葉を漏らす
「の、ぼり?思い出した、の?」
小さく弱々しい声で兄さんは喋る
「貴方が肉巻きアスパラを嫌がるから、しかたなくワタクシが全て食べて」
ボクは話を続けた
「…そうそう、それで、さ ボクがご飯こぼしちゃって、大泣きして」
「まったく、むかしから、あなたには せわをかけられて」
「うん、ごめん、ね」
兄さんはボクを見つめながら
「ゆうえんち、たのしかった、です か?」
と呟く
ボクはもうまともに兄さんの顔が見えなかった
「うん…たのし、かったよ」
ついには頬を伝う熱い液体
兄さんは少し笑って
「よかった」
と呟いたきり、動かなくなった
「ノボリ…?ノボリ、ありがとう、ノボリ、ごめんね


おやすみ」

思い出してくれてありがとう



おやすみ ノボリ




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