勝てば官軍負ければ賊軍 | ナノ
「おーいユウ。起きろー」
「あと…五分………いたっ!」
布団でもぞもぞしてたらラピードというわんこに布団をひっぺがされた。勢いで床に頭からダイビングする。痛いじゃないかわんこめ、という思いをこめてドヤ顔してるラピードの尻尾を掴む。「わう」と鳴いて前足を俺の頭の上にぽん、と置く。離せってことか。
「ほら、飯食いに行くぞ。」
ユーリに手を引っ張られて渋々起き上がる。マジ眠い。目がしぱしぱする
「お、お前服着ろよ!」
ユーリは顔を赤くしてはいないが方手で顔を覆って後ろを向く。自分の姿を見ると半裸のままだった。これは流石に不味いと思ったから買ってもらった服を着る。ユーリに着た、と伝えるとそのまま歩き出していった。
俺もジツを持って部屋を出ようとしたときジツが喋りだした。
【ネェマッテ】
「どったん?」
【カンバッチ、ミニツケテオイタホウガイイヨ】
恐らくバッグに付けていた、アイツにもらった缶バッチのことだろう。なんでだよ、とか思いつつもバッグから外して胸のポケットにつける。これで文句はないだろうと階段を降りた
「あら、遅いじゃないかい。早く座んな」
女将さんはなんだかんだでいろいろ世話を焼いてくれる。優しすぎるだろ。
突然女将さんがユーリを見て驚いた
「なんだいアンタその髪型」
釣られてユーリの頭に目を向けると昨日の髪型のままだった。なんだ、そのままにしてくれたんだ。
「昨日ユウにやられたんだよ。髪邪魔だったし丁度いいから…ってなんだよその顔!」
「ユーリが髪結んでるー!」
「うるせーぞテッド!」
「あんたら朝っぱらからぎゃーぎゃー騒ぐんじゃないよ!」
愉快だなぁ…とか思いながら椅子に座る。こっちにもいただきますとかそういう習慣はあるらしい。みんな椅子に座って手を合わせて いただきます。
それぞれが料理を口に運ぶ。このサンドイッチ美味しいな。
それからは何にもなくて一緒にごちそうさましてそこまで汚れていない食器を洗う。
酒場の仕事は昼間は少ないらしい。夜になるとすごく大変になるけど。まぁそんなわけで昼間はやることがてんでないのでございます。宿屋のお手伝いをしようにもこれまたやることがないのでこの家の生計は本当に大丈夫なのか疑ってしまう。余計なお世話か。
「どうしようかなぁ」
ふと思いついた。自分はこの世界のことを知らなさすぎなのではないのだろうか。魔物とかいるらしいし。ここの世界にはネットとか携帯電話とかテレビはないらしい。
文字がわからないのも不便だ。言葉は通じるとはいえ書けないのはおかしいだろう。世界共通らしいし。
「でもどうやって…学ぼうか」
ボーっと窓を見る。曇りがない窓に自分の顔が映る。髪型はそのままだけど目が赤くなってる。昨日の時点で風呂に入ってから知ってた。声をあげてはいないけどそのまま固まった。数秒くらい。まぁ特に支障はないからいいけど。
「街を歩くか」
取りあえず地形把握しよう。そうしよう。貴族街には行かないようにしなきゃいけないんだっけか。市民街は行ってもいいけど気をつけなきゃ行けない。騎士を見たら近づかないようにすること。ユーリに教えられたことを思い出す。
バッグはいらないだろうと思ってそのまま部屋を出る。
「はー…広いな」
宿の前から町を見渡す。
「おぉ、ユウキ。どこへいくんじゃ」
話しかけてきたのはハンクスさん。下町に住んでるじーさんでユーリに世話を焼かされてるらしい。
「ハンクスさん。いや、ここのこと全然知らないから少し学ぼうと思って」
「ほう、勉強熱心じゃな。よしちょっとついてこい。」
ハンクスさんは歩き出した。どこへ行くのかは知らないけど黙ってついていく
ハンクスさんが足を止めたのはハンクスさん自身の自宅だった。ハンクスさんは「ちょっと待っとれ」と言って家に入る。しばらくして出てきたハンクスさんの手には本があった
「これをやろう。」
差し出されたのは手にしていた本。受け取ってページを捲ってみるとやっぱりわけわからない文字がみっしり書かれてる。うぅ、頭痛い
「文字の表があるからテッドにでも教えてもらいなさい」
「ありがとうございます!」
「礼儀正しいのう…どっかの誰かさんとは大違いじゃ」
どっかの誰かさん、は多分ユーリのことだろう。俺は苦笑いを零す。
「さっそく教えてもらいに行ってきます!」
その場から走り出す。ハンクスさんが後ろで転ばないように注意しろ的なことを叫んでたけど本をもらった嬉しさで全然聞いてなかった
誰に教えてもらおう。テッドは多分今は遊んでるだろうし女将さんは仕事で忙しいから論外で…ユーリは、めんどくさいから嫌がりそう。ら、ラピード…?ラピードは流石に無理か。じゃあじゃあ…
「何してんだ?」
「あ、ユーリ」
この際ダメ元で教えてもらおうかな、と思って言ってみた。そしたらユーリは案外あっさりと了承してくれた。その代わり今度パフェを奢ることになったけど。案外甘いものが好きらしい。
部屋に戻って本を開く。向こうの世界で言うあいうえお表みたいな表記のあるページを開いてユーリに一つ一つ教えてもらう。文字を覚えるために絵を描く用の紙とシャーペンを出す。2、3回ノックして芯が入っていることを確認する。するとユーリが「なんだ、それ?」と言ってシャーペンを怪訝な目で見る。もしかしてこっちにはないのか。随分と不便な世界だな電気や水道もブラスティアと呼ばれる物でできているらしい。だからパソコンとかテレビとかもない。携帯も電話もないらしく通達は手紙らしい。
「これは、」
言葉が詰まる。どう説明すればいいのだろうか。覚えていないとシラを切るか…?本当のことは話すべきではないだろう。
「覚えてないなら無理に答えんな」
気を使ってくれたんだろう。申し訳なさそうにこっちを見て頭をポンポンしてくる。
「…俺が住んでたところで使われてた、ペンだよ。これで消せるんだ」
シャーペンで適当に書いてから消しゴムを出して書いたものを消す。ユーリは目を少し見開いて「おぉ」と声を漏らした。
本を見て文字を書き取る。そして文字の傍に小さく自分の世界の文字を書く。
漢字とかそういう複雑なものは存在しないらしくて日本で言うひらがなだけを覚えれば大丈夫らしい。ただ文字一つの形が似たようなものだったり複雑だったりして覚えるのは大変そうだ
「お、それは あ じゃなくて ら だぞ」
「ん、こっちか。」
文章を書いてみたり読んでみたりユーリに問題出してもらったり。それでも半分も覚えられない。学校で成績はよかったのにな。ついでにクエスチョンマークとエクスクラメーションマークは同じらしい
本を捲ってこの世界のことについて書かれたページを見る。書いたばかりの文字表を隣に置いて読んでいるとユーリが本を取り上げて「読んでやるよ」といった。それじゃあ勉強にならない気もするけどめんどくさいし読んでもうことにした



その日はずっとその本を読んでいた。ユーリもずっと一緒に付き合ってくれた。仕事はちゃんとやったけどね





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