勝てば官軍負ければ賊軍 | ナノ
(そういえばバッグを開けてなかったな。)
 街を回ったあと女将さんから借りた部屋に戻ったときに思った。もらったときより重さが増してた気がしていたから確認しようと思ったけど忘れてたわこんちくしょう。取りあえず中身を確認しようと思ってバッグを見やると何か違和感があった。
「…開いてる?」
 バッグの端の布が捲れている。誰かに漁られた…か?いやでもここに入るって言ったら、女将さんか…ユーリ?でも女将さんがそんなことするはずないし、ユーリ、は…ありえそう、だけど…いや失礼か。取りあえず風とかで捲れただけかもしれないし、取りあえず中身見よう。
 手前にバッグを持ってきて中を見る。画用紙や画板、絵の具に筆やパレットといった絵を描く道具や拳銃の形をした武器と小刀、缶バッジ。
「…?」
 そういえば白い男に何か貰わなかったっけ。50cmくらいの、何か。ああもう自分の忘れっぽさに腹が立つ。
【ナアニシテルノオジョーサン】
 突然変な声が後ろから聞こえた。なんかもうあれだね、背後取られまくるね自分。後ろを見たらどこかで見たことのある気味の悪い人形…確か、自殺人形だっけ。っていうかこいつ今お嬢さんって言ったぞ
【ネーキイテル?アノネオジョーサン】
「おい、お嬢さんってやめろ」
【ナンデ?モシカシテキミセイドウイツセイショウガイ?ココロハオトコノコミタイナ?】
 ケタケタと笑う、とんでもなく失礼なことを言う奴だなこのやろう。ん?こいつ雄か?
「殴るぞコラ。名前でよべ名前で。」
【ハイハイヨロシクネ ユウ】
 いやなんで名前知ってんだよ名前で呼べって言ったけどよ。
「よろしく、自殺、人形…」
 なんか自殺人形ってヤダな…自殺って響きが嫌だ。なんかないかな、自殺、ジサツ、ジツ?とか
【ユウ?ドッタノ?】
「お前のことジツって呼んでいい?」
【ベツニイイケド、ジツッテナニサ】
「ジツが俺をユウって呼ぶのと同じ」
【キミセンスナイネ】
 無言でジツを殴る。イタッと声を上げてその場にうずくまる。お前が悪いんだからな。
【トリアエズキミニツイテマワルカラヨロシク】
 またケラケラ笑って俺の頭に登る。こら俺の頭は山じゃないぞ。
「ユウー。飯だぞー」
 ユーリの声が聞こえた。今行く、と声をかけて一階へ向かう。案の定頭にジツを乗せて行ったのですんごく変な目で見られる。
「なんだよそれ」
「俺のあいぼー」
「趣味ワリー」
「ユーリ後で部屋来い」
 キッと睨みつけてやるとユーリは苦笑いして嫌なお誘いだな、と笑う。あとで髪の毛結ってやる。女の子っぽいの。
 取りあえずご飯食べて風呂に入る。なんか久しぶりな気がする。身体に当たるお湯が気持いい。
「ぶへー、きもちいいわー…」
 一通り洗い終わって体に付いてる水を拭き取る。首にタオルをかけてベッドに座る。未だ濡れた髪をガシガシとタオルで拭う。少し暑かったから上は何も着ていなくて下はジャージ、勿論こっちに来たときに着てたやつ。ジツに【イロケナイネェ】とか言われたけど気にしない。色気なんて母さんの腹ん中に全部置いていった。
「おーいユウキいるかー…あ」
 突然ユーリが入ってきた。ノック無しに。勿論俺は半裸だ。ユーリは何故か気まずそうに目を逸らす。なんだ、ユーリって結構ウブなのか。
「お前…女だったんだな」
「別に慣れてるし男として扱ってもらっても構わないけど。んで何しに来たんだ?夜這いか?」
「女だって知らなかったのに夜這いに来るわけないだろ!」 ってことは女だって知ってたら夜這いに来たってことかい少年よ。意味深だな
「あとで俺の部屋来いって言ってただろ。」
 わざわざ冗談のために来たのか。律儀な奴だな。ユーリの好感度あがるね!
「んじゃまぁそこの椅子座れや。」
 言われるがままにユーリは椅子に座る。髪ゴムをいくつか取り出して手首に通して髪を掴む。その一連の行動にユーリは何をするのか疑問に思ったのだろう。後ろ、俺の方を向く。ちゃんと掴んでいなかった髪がサラサラと手から滑り落ちる。
「何するんだ?」
「髪を結うんだよ」
 思いっきり嫌そうな顔をしてこっちを見るユーリ。問答無用で顔を前に向けてやると諦めたのか抵抗する様子はなかった
 櫛はないので手で髪を梳かす様に撫でる。勿論絡まる毛や枝毛なんて一本もない。腹立つなこのやろう。少し恨めしく思ったので一本だけ抜いてやった
「いたっ、何すんだよ」
「嫉妬」
「はぁ?」
 髪ゴムを一本咥えてユーリの髪を少し束ねる。ゴムで束ねた髪を少し強く結ぶ。うん、可愛い
「できた。明日ずっとこの髪型な」
「は?嫌だよ。こんなの下町の奴らに見られたらなんて冷やかされるか…」
「似合ってるよ」
 ユーリはうれしかねーよと言って部屋を出てく。ここで解いていかないんだーとか思いつつベッドに潜り込む。濡れてたはずの髪は既に乾いていた。疲れていたからすぐに意識が落ちる。


 明日は何をしようか。


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