勝てば官軍負ければ賊軍 | ナノ
振り返ると髪の長い奴がいた。男だろうか、胸が空いている服を着ている。目は明らかに不審者を見る目。そう、俺が白い男を見たときのような目。
「? おい、聞いてんのかよ」
男の質問はどこから来たか、だ。勿論違う世界からだなんて言って信じてもらえるわけでもないしだからと言って俺が知ってるのはこの世界がテルカ・リュミレースだっていうだけだ。
「あー、ちょっと遠くの町から」
適当に言ってみた。これで実は町なんて存在しなくて嘘だってバレたらどうなるんだろうか
「ハルルから来たのか?」
「あぁ、うん。そう」
ハルルがどこかなんて知らないけど取りあえずうんって言ってみた。すると足元でワンッと犬の鳴き声がした。驚いて後ずさりながら足元を見ると目に傷があるキセルを加えた犬らしくない犬がいた
「嘘だな」
長髪の男の言葉に心臓がはねる。なんでバレたんだ?いや、もしかしたらカマかけてるだけかもしれない
「ラピードが嘘だって言ってる」
「は、は?ラピード…?」
もしかしてこの犬のことか?犬の顔を見ると鼻をフンと鳴らし興味なさげにそっぽを向いた
「んで?どっから来たんだよ?」
「…知らねぇ」
「は?」
いろいろ誤魔化して事情を説明した。適当に歩いてたらこの町?国?に着いて取りあえず歩いていた。ここに着くまでの記憶が何故か無くて覚えてるのは自分の名前とかくらい。嘘つきすぎとか知らん。勿論信じてもらえるわけではなくてさらに眉間のしわを濃くして長髪男は俺を睨む
「…まぁどうでもいいけどよ。」
じゃあなと言って男は立ち去ろうとするのを俺は止める。考えなしに止めたわけじゃない
「あのさ、ここらへんで文字読まなくてもできるバイトとかない?」
男は少し目を見開き何拍か置いて言う
「…文字読めねぇのか?」
「あぁ、うん…まぁ」
男は少し考えたあと俺の腕を掴んで、こっちこいと言ってスタスタ歩き出す。案内してくれるのだろうか、もしくは警察にでも突き出されるのだろうか。後者は勘弁してもらいたい。そもそもこの世界に警察なんているのか知らないけど。
広場のようなところに出て階段を下る。下った先にはまた町があって周りの住民は驚いた顔をして俺と男を見る。見られることには慣れてるから別に構わないが(主に入学式で女子制服を着てるとすごく見られる)
男はすこし大きめの建物に入る。中は騒がしく賑わっている。酒場だろうか。男は奥まで俺を連れていきカウンターに立つ女性に話しかける。
「こいつここで働かせてもらえないか」
「別にいいけどどこから連れてきたんだい?」
男は質問にさっき俺が言った嘘を女性に話す。自分で考えたにしろ恥ずかしいいいわけだと思った。
話終わったのだろうか、女性はこちらを見て眉を下げる。
「アンタ…大変だったね。どこから来たかわからないなんて…文字も読めないらしいし、こんなボロ臭い酒場でよかったら働かないかい?」
同情が痛い、だって嘘なんだもん…!優しい人に嘘をつくのは心苦しい。あ、男の人が優しい人じゃないわけじゃないんだけどな。
「えっと、じゃあお願いします」
女性は笑ってこちらこそ、と言った。



いい人に会えてよかった

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