memo | ナノ




お題:静かな経歴
590字 30分

背中は語る

プロイセンの背中には、いくつもの傷がある。火傷や、切り傷や、銃創、その他の私にはよくわからない傷たちだ。深いものは朱色の引きつった痕となって、浅いものは光の反射でやっとそれとわかる一筋の白色になって、背中にはりついている。白い肌をキャンバスに見立てれば、一種の抽象画として見ることができるかもしれない。

彼が自身の過去を語ることは少ない。例えば、雨の降る深夜なんかに、ぽつりぽつりと漏らす言葉から推し量ることしかできない。
そんな時プロイセンは大抵、目を細めてほんの少しだけ笑っている。彼にとっての過去は輝かしいものであると同時に、恥じる点も多いのだろう。まだまだ熱いコーヒーを両手でくるむ私は、立ち上る湯気に頬を緩めながらそう思った覚えがある。
歴史なんて図書館にいけば幾らでも学べるかも知れない。彼の膨大な日記を盗み見れば何を感じたのか分かるかも知れない。けれども私は、彼が背中の傷を一つ一つ数えながら、いつ、どのようにしてできた傷なのかを教えてくる日を夢想している。

いつか彼の傷が全て消えてしまったらいいと思う。滑らかで、肩甲骨の浮き出た完璧な背中に私が強く爪を立ててやるのだ。皮膚を捲り上げて肉に食い込む長い爪に、彼は決して声をあげない。そうやって白と青でフレンチネイルを施したオーバルの爪は彼に赤い弧の傷を残す。その傷が彼の唯一の傷となることを、私は望んでいる。
top
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -