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「つみにきまっている!それはつみなのだ」

未だ幼い少女の口から「つみ」という言葉が放たれるたび、ディエゴは滑稽なような、それでいて厳粛な神聖さのようなものを感じる。

「さあ、火を消せ、そうしてあの命の火を消してやるのだ。おお……、おじいさま、ぷろめーてうすって?」
「人に火や文字をを伝えたギリシアの神。一度消した火は神によらなければ蘇らない。そういうことか?」
「うん、お前に二度と命の火をもえあがらせることはできぬのだ、だって」

ぱらり、ぱらりとページを捲って、そのうち飽きたのか、ぱたりと本を閉じた。焦げ茶の背表紙に刻印された金の文字を指先でなぞり、開いたままの画集に目を向けた。

「かみさまって、人に対してすっごくいじわるね。ペットみたいにべたべたに甘やかしてくれたらいいのに」

ギリシア神話も二度の奇跡もディエゴの性に合わない。メアリーも、そうなのだろうか。

「ダッドか?」
「うん。かみさまなんかより、ようせいのほうがすてきだわ」

重くて膝に乗せることのできない画集を床におき、その場にぺたりと座り込んでページを繰る。

「しんし、ようせい、ようせい、魔女、ようせいの王様、女中、泥棒、ようせい、農夫、ようせい。……パック」
慈しむように形をなぞりながら熱心に役割を言うメアリーに、ディエゴは何か不可解な感情を覚え、手を伸ばしかけた。

「お気をつけください、将軍。嫉妬というものに」
「イアーゴーは秩序を変えたか?」
「いいえ、ちっとも。おじいさまの目は森のグリーンだわ」

ほのおをもやさないかぎりだけれど、と続けたメアリーの目がぎらぎらと輝き────


────ディエゴは目を覚ました。
額と首筋にかいたべたつく汗をおざなりに拭い、横たわっていた長椅子から身を起こした拍子にディエゴの膝の上に伏せておかれていた本が落ちた。それを拾わずにディエゴは首を振ってメアリーを見やると、メアリーは可愛らしい妖精のページで広げられた画集の横にだらしなく横たわっていた眠っている。ディエゴはそんな所で寝るなと声を掛けて足元の本を拾った。タイトルはothello。
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