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「彼女のたましいは天使さまにみちびかれて、お空へのぼっていきました」
「めでたしめでたし?」

幼い声で絵本を読み上げたメアリーに茶化すように言うと、メアリーはへんなのーと読み継がれる名作童話にけちをつけた。

「このおはなしの言いたいことって、上辺のうつくしさよりも心が大切ってことよね。でもそんなのへん。上辺がうつくしくなければきっと誰も心がうつくしいとは思わないわ」

メアリーはふんすと不満げな顔で絵本をぺしぺしと叩く。

「それに、彼女、うつくしいもの。おごっているときだって、こじの子たちよりずっときれいだわ」

どうやら挿し絵の話をしているらしい。メアリーの小さな膝の上の、パステルカラーで彩られた絵本を覗き込んむと、主人公は見事に波打つ金色の髪のすっきりした顔、メアリーの指す孤児は赤毛、縮れ毛、しもぶくれ、そばかす、なるほど、確かに明らかに区別されて描かれている。
それにしてもと処刑人が主人公の足を斬るシーンは、子供の読む絵本にしてはやりすぎじゃないのかと思う。白い服には血が飛び、足の断面は見えないが斬られた足が飛び跳ねるのはユーモラスと言えなくもないが、やはり怖い。表情は眉を顰め片目を見開き、大きく開いた口に描かれた唾液は官能的でさえある。
メアリーはそんなことに全く頓着せず、次の絵本を探している。この妙に大人びた少女に絵本は似合わないのではないか。メアリーは文字も読めるし理解できる。挿し絵がなくとも多少長くとも飽きずに読むことだろう。
ディエゴが手に取ったのは幼い少女が不思議な冒険をする物語。

「名前」
「なぁに、おじいさま」
「これ、読んでみないか」

祖父の選んだ本に飛びつくようにするメアリーに、口元を緩めた。
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テーマ「人外ファンタジー」
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