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「わたし、馬が好きなの!」

俺が騎手だと漏らすと、名前は目を輝かせて言った。小さな子供特有のあこがれか、御伽噺の中の人語を解す馬の話かと合点した俺は聞き流すつもりでいたが、存外しっかりとした話しぶりに、聞くともなしに聞いていた。

「馬の上からね、馬のあしが上下にうごくのって、とってもきれいなの!すらってしているし、りりしいかんじがするわ」

俺が初めて馬に乗った感動をそのままメアリーが知っているようだった。俺とメアリーの馬への琴線は驚くほど同一かもしれない。

「まだはやくは走れないけど、はやくなるとかぜがほっぺにあたって、きもちいいの。それに馬ってとっても……あたまがいい……ううん、かんがえがある……。……わたしの思うことをわかろうとしてくれて、考えたことをつたえようとしてくれるの!」

血縁も面識もない、年も大分離れたメアリーと、馬に関してはうまくやれそうだと思った。

「でもね、まだ背がたりなくて、一人じゃあ馬にのれないの。はやくおおきくなりたい」
「ああ、じゃあ好き嫌いはすべきじゃあないな」

メアリーは恨めしげに皿の端に寄せたベイクトビーンズをフォークでつついた。この屋敷の料理長はフランスとイタリアの料理を学んだと言うし、このベイクトビーンズは他国から非難される最悪の「英国料理」ではない、はすだ。好き嫌いの問題かは知らないが、一度食べてみて損はない。

「少しでも構わないから、食べて見ろ」

せっつくように言うと、おそるおそるというようにフォークを薄い赤茶の豆に突き立てる。目をつむってフォークをくわえ、もぐもぐと咀嚼する。眉根を寄せているのが傍目にもわかった。ごくん、と音がするように飲み込んで、こちらを向いた。

「おもったよりきらいじゃないけど……やっぱにがて」

メアリーの食の嗜好が俺と重なることは、当分無いだろう。
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