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「せんせ?」

「どうしました」

先生は綺麗だ。ピアノを弾いているときはなおさら。鍵盤を踊る指は細くて伸びやかだし、歌うように口を小さく開いているのも可愛い。目は閉じているか、伏せているかしている。

「先生は窓付きちゃんを待ってるんですか」

「はい」

先生は随分と人間らしい。感情が豊かっていうのかな。ここらへんにいる人はみんな大体喜怒哀楽のうちどれか一つしか持っていない。一つも持っていない人もいる。先生はそのうち、喜と哀は絶対、それと多分楽も知っているんじゃないかな。怒ってるところは見たことがないんだけども。
さらに言えばここらへんには滅多にいない男の人。私は遠くへは行けないから分からないけど、近くにいるのは女の子ばっかり。先生は美人さんだけど男の人。細く見える腕や足もしっかりしていると知っているのはたぶん私だけのはず。
先生はピアノが得意。先生がピアノでつっかかったことなんて一度もないし、これからも絶対に無い。私が聞いたことの無い曲を何曲も知っている。もしかしたら先生が作曲しているのかもしれないな。胸が張り裂けそうな曲だって明るくて楽しい曲だって切なくて夢みたいな曲だって弾きこなしている。
先生は猫が好き。見ていて羨ましくなるくらいに。そういえば先生って猫に似ている気がするな。尻尾の長い黒猫に。
先生はみんな好き。ピアノも。ここも。猫も。窓付きちゃんも。たぶん、私も。私は特別じゃないけど、先生は私の特別。

「先生。先生。ねえ先生」

先生はピアノを弾いている。窓付きちゃんはまだ来ない。私は膝を抱えて座り込んでいる。



夢色宇宙船
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