セイブミー | ナノ


「吉良さんの正面でご飯食べるの難しい」

どう考えても唐突な私の言葉に吉良さんは片方の眉をはね上げた。手には箸、口内には白身魚のフライ。
今日のご飯は吉良さんの家でご馳走になっている。メニューは白身魚のフライ、サラダときんぴらごぼうと、私のリクエストしたじゃがいものお味噌汁だ。タルタルソースを自作するあたり、几帳面だと思う。勿論全て絶品だ。やっぱり私は吉良さんに弟子入りすべき。

「……どういう意味だ」
「あの、吉良さんの唇が性的です」

箸をおいた吉良さんの手が、自身の口元を覆う。心なしか頬が赤い、気がする。

「吉良さんだって目の前に指にタルタルソースのついた女の人がいたらわかるはずです」

自分で言っておいて、だいぶ恥ずかしい。但しどうしても譲れないので、きちんとそれだけは言っておく。

「……彰子君」
「はい」
「食べよう」
「はい」

箸を置いた二人の間に流れた空気をどうにかするように、吉良さんが宣言した。
黙々と食べる。吉良さんも、私も何も言わない。むしろ言えない。
ごちそうさままで、上を向くことができなかった。
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