何でこんな事になっているのだろう。
一つ、正臣は考えた。
酒とは飲むものであって、のまれるものでは無い。ましてやよりによってこの人がこんな姿になって帰ってくるとは思いもよらなかったのだ。

「まっさおっみくん!たっだいまー…、ご主人様のお帰りでーすよ!」


何だ、これ。

時刻は深夜2時過ぎ。けたたましい騒音を鳴り響かせ、なんとも言えない甘ったるい香りを匂わせながらマンションへとやってきたのは、折原臨也だった。
帰ってくるなり玄関へと倒れ込んだ臨也を、慌てて支えた正臣は困惑していた。

「(…まさか、酔っ払ってる?)」

酒はあまり得意では無いと自負していた本人。
今日は取引相手との談話会があったらしいが、様子を見ると仕方なく飲みに付き合った挙句に酔っ払い、相手がおいとました後も飲み続けていたのだろう。結果、帰巣本能に救われたらしい。

「…あんたは動物か」
「んー?」
「なんでもありません…臨也さん、ほら靴脱いでください。水持ってきますから」
「正臣くん俺のお嫁さんみたい…、ん…」
「馬鹿なこと言わないでくださいよ!!何言ってんですか…」

不覚にも顔が熱くなったが、今はこの酔っ払いの介抱が先だ。
とりあえず靴を脱がせ、水を持って来ようとキッチンへ足を向けた瞬間。パーカーに小さな違和感。それは、正臣の裾を掴んでいる臨也だった。

「…臨也、さん?」
「正臣」

低い、熱のこもった声音。背筋がぞくりと脈を打ち、下半身が締め付けられた。

「正臣、正臣くん。こっち、来て」
「え、ちょ、待って。臨也さん、」
「いいから来い」
「う、わっ」

体勢を崩し、飛び込んだのは臨也の胸の中だった。正臣は数秒固まり、我に返った時には抜け出せなくなっていた。

「待って…臨也さん、臨也さん離してください…、」
「可愛い。正臣くん俺が見込んだ通りやっぱり可愛い。あー可愛い」


何なんだ、本当にこの人は。

なんとか顔を確認しようと後ろを向けば、視界を手で覆われた。正臣は小さく声をあげ、何とか脱出しようと足掻くが、どうやっても抜け出せない。

「離して…っ、離せ!!」
「ねえ、正臣くん。シたい」

半ば予想していた言葉に、正臣は身体を強張らせた。

「馬鹿なこと言わないでくださいって…さっきも言ったでしょう」
「俺とするのは嫌?やっぱり駄目?」

アルコールのせいかいつもより直線的な物言いに、反抗が弱くなる。未だに正臣の視界を覆っている臨也の手は、熱かった。
すると、するり。
前触れも無く下半身にのびた、手。

「んっ、」
「は…何?感じちゃった?」
「この…、変態…!!」

嘲るような声が響いた。
正臣の反応に気を良くしたのか、臨也はねっとりと耳筋を舐め上げる。

「ん、ふ…」
「気持ちいい?」
「や、めろ」
「正臣くん嘘付き」

もう勃ってるよ、とそこを強く揉まれ、正臣はあられも無い声をあげた。
ゆったりとそのまま寝転がるようにして押し倒され、パーカーを捲りあげられたと同時にベルトも外される。

「可愛い」
「ちょ、臨也さんここ玄関、」
「大丈夫。正臣くんが声抑えとけばきっと響かないよ。何、それとも腰痛くなるの嫌?」
「あ、当たり前…ん、ふ、ぁ」
「俺さ、今ちょっと気分良いんだよね」

当たり前だ。酒を飲んだんだからあんたは。
そう視線で伝えれば、臨也はぺろりと自分の唇を舐め、屈託の無い笑顔で微笑んだ。

「だから、ちょっとヤりすぎちゃうかも」

この瞳は、嫌いだ。

――――――――――――――――


「あ、んぅ、ひゃ…っあ、」

玄関で一つ、折り重なる影。正臣は自身の最奥を突かれ、ただ快感に喘いでいた。

「ん…、イく?いいよ」
「ん、ぁ…あ、ああぁ、あ…、!」

やはりいつもより上機嫌な臨也は優しい事は優しいのだが、それはそれで激しく身体を求めてくる。撒き散らされた白濁を見つめながら、正臣は息を整えた。

「臨也さ、…も、無理…」
「は…、いけるいける。ほら、まだ締め付け弱まってないし」
「も…や、だぁ…」

弱々しく胸板を押したが、それで臨也が行為を中断するわけでも無い。再び始められた律動に、正臣は目の前が白く霞んでいくのを感じた。

「あ、あぁ…ふ、ぅ…やぁ」
「嘘吐き…また勃ってるけど?」
「ん、ぅ、や…言わない、でくださ、」

内壁を抉られるような圧迫感が気持ち良い。一番感じる場所を突かれた瞬間、正臣はまた床に精液を撒き散らした。

「ん…、は…っ」
「あぁ、んああぁあ…、臨也さ、いざや、さ、」
「正臣、くん。俺の事、好き?」
「ん…やぁ、」
「好きって言うまでやめないけど」

絶頂を迎えたばかりなのにも関わらず、臨也は正臣の中でまた律動を繰り返した。
これじゃ拒否権も何もないだろ、と心の中で悪態を吐きながら、なんとかその一言を口にしようとする。

「ひゃ、あ、あぁ、す、き…いざや、さ」
「何…?聞こえない」
「すき、臨也さん、ぁ、愛してる、から、」
「もう一回」
「愛してる、好き…あ、ぁ、いざやさ…ん、」
「…良く出来ました」

涙をこぼして頬を染める正臣にそう一つ微笑むと、臨也は更に激しく腰を打った。感じる所を重点的に攻められ、比例して大きくなっていく声を抑えようと、正臣は口元に手をやりただ喘ぐ。

「あ、あぁ、ふ…あぁあぁ…、!」
「く…っ、」

最奥をそれが掠った瞬間、抑えきれなくなった声と共に、正臣は臨也を締め付け射精した。


――――――――――――――――


「…だから俺何にも覚えてないんだって」

早朝、いつのまにかシャワーを浴びてリビングでコーヒーを飲んでいた臨也の一言に、正臣は絶句した。

「…覚えて、ない」
「うん。昨日取引相手に嫌々従って飲みに言った所まで覚えてるんだけどさ。後はさっぱりだよ」
「お、俺はちゃんと寝室に行こうって言ったのに…!」

満足に歩けない身体が憎たらしい。寝室に向かう途中に寝倒れるか、そのまま玄関で爆睡してしまえばこんな痛みにも襲われなくて済んだのに。
にっこりと微笑む臨也を一瞥して、正臣はさっさと洗ってこようと震える足でバスルームへと向かった。

「…今日も酒飲んでこようかな」

昨日の俺に流される正臣くんは可愛かったなあ、と。
コーヒーを飲みながらキーボードを叩く臨也の囁など、正臣が知る由も無い。



酒にを一滴。

今日も平和な一日が始まる。








「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -