赤から黄色の点滅を通り越して、青に戻る。

くるくるくるくる。
巡回する光の下、横断歩道を呑みこむほどの人々が行き交いしていた。
それに流されもせず、逆らいもせず、ただその集団をじっと見つめる少年、紀田正臣は漠然と思う。

「(くだらなすぎる…!)」

ポケットの中で鈍く音をたてた携帯を一瞥し、藍色に彩られた空を仰いだ。
既に時計の針は7時を差し、臨也からのメールより1時間は遅れている。正臣は携帯を取り出し、元凶のメールを確認した。

送信者:折原臨也
確認ファイル:1枚
本文
---------------------------------
6時に交差点前で俺を見つけること。
待ってるよ(*゚▽゚*)


-end-
---------------------------------


「……はあ、」

ふざけた内容とふざけた絵文字。早く見つけろ、と言わんばかりに添え付けられていた交差点の写メを睨み付けた。

隠れんぼでもしている感覚なのだろうか。
ついこぼれ出たため息。正臣は2通目の新着メールの送信者が臨也だと言うことを確認し、しかめ面のまま削除した。

「臨也さん…どこ…」

下手に動いても見つけられる自信も無く。正臣の目の前で、忙しなく動き続ける人々。
好い加減、足が疲れてきたと正臣は目を伏せた。

「(これで帰ったら、どうせ何気なく笑ってる臨也さんが居るんだろうか)」
「(おかえり正臣くん、遅かったね。なんて、)」
「(あの人は、あいつは)」
「(俺をからかって、嘲笑って、)」
「(いつも俺だけが振り回される)」
「(なんだか、)」

俺だけ、好き、みたいで。

信号がチカチカと点滅し、色を変えたと共に、人が正臣を呑み込んだ。
馬鹿馬鹿しい、と何回目かもわからない舌打ちをし、伏せ目がちに辺りを見回す。

「…何で俺が、もう、めんどい」

本音と言う建前の、拗ね。
もう一度携帯に目をやり、深く息を吐き出して一歩を踏み出した。狙ったかのように、また正臣のズボンの中で、携帯が震える。

「あー…もう、何、」

と。
信号が青に変わり、身を引くほどの人が歩道を行き来した。その中で一際正臣の目を引いたのは、黒コートの男。

「…いざ、やさ……、臨也さん!」

反対側に向かっていく黒コートの男に、思わ声を出していた。ちらり、と何人もの咎めるような視線が、正臣を捕らえる。
けれどもこちらを向いたのは、まったくの別人だった。

「あ…、」

気にかける様子も無く、足早に去っていくその人。不覚にも涙がこぼれそうになり、正臣は強く唇を噛み締めた。

「いざや、さ…」
「浮気?」
「、」
「俺のこと、見つけるんじゃなかったの」

耳朶を打った、聞き慣れた声音。
遂に頬を流れた一粒に、正臣は口元を手で覆った。

「いざ、臨也さ…しね…、」
「泣かしちゃった。わー俺って罪な男」

ふざけた口調にそそのかされたように、信号がまた点滅を繰り返す。為すがままに手を引かれ、正臣は裏路地まで引き込まれた。

「メール、見なかったの?」
「…み、た」
「最初のだけだろ?」
「…、」

見透かされた返答に正臣は口をつぐんだ。ため息混じりの苦笑と共に、取り出された臨也の携帯が光る。

「ただの正臣くん観察だって。ちゃんと謝罪のメール送ったんだけどな」
「ふざけ…!俺が、どんなに…」
「泣いちゃうくらい寂しかったんだ?」
「…浮気、してくる」
「駄目」

ぎり、と掴まれた手首に、物憂げな視線が絡まる。
臨也は正臣の首元に唇を寄せ、強く抱き締めた。

「浮気は、駄目」
「…俺、散々待ちました」
「うん。冗談だよ、って言うメール消されて焦った」
「なんか、惨めで。怖くて、嫌で」
「うん。ごめん」
「すっごい、寂しかったです」

臨也がきょとんと目を丸くしたのを横目に、正臣は黒いコートを思い切り手繰り寄せた。

吐息。
唇の感触。
ビル群の喧騒。

割って入ってきた舌の甘さに、瞼を伏せた正臣。臨也は応えるように、くつりと笑みをこぼした。

「い、ざやさ」
「ごめん」
「…は、ぁ…ふ、」
「ん…、」

限界が近いのか、酸素を取り入れようと、正臣が臨也の胸板を、強く押した。更に口元を深く歪めた臨也に、正臣は心中で毒づく。

「(この、変態)」
「なんか先に言いたい事ある?」

コートを肩までずり下げ、妖艶に笑む臨也が、これからの行為を簡単に予想させた。
捕食者の目付きで正臣を見据える臨也。
ちかり、ちかり。
路地の闇に紛れ込んだ青色が、黄色に変化し、点滅を繰り返す。

「信号、きれいですね」
「正臣くん?」
「臨也さん、好き」



【空信号】
からしんごう。


臨也が時間差で目を見開き、正臣を強く抱き寄せるまであと2秒。








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