正臣誕生日祝い!
時間がwwwwなかったんだwwwwww本当に申し訳無いと思っている(迫真)
◎臨正臨風味?なんか自分でも書いてて良く分からなかった。甘くない。



0時0分。
毎年毎年、狙って鳴り響く着信音が今年は無い。
0時1分。
まだ見つからない。
現地、折原臨也のマンション宅にて、6月19日の今日に誕生日を迎えた少年――紀田正臣は、テーブル上の雑誌を乱雑に放り投げ、溜息を吐いた。

去年と同じく臨也のマンションに自らの誕生日を祝って貰う為に出向いたのだが、「早く君に愛を伝えたいよ(><)///」といったふざけたメールに打って変わり、そこはもぬけの空であった。
いつもの気まぐれか、否か。
本人が存在しないその部屋では真偽を確かめる術も無く、怒りと屈辱から眠りこけて、4時間。6月19日に姿を変えるその30分前、正臣が目覚めた時、テーブルに放置していた携帯が消失していたのだ。

「どうしてこうなった」

ソファーに座り直し、低く唸っても、携帯が出てくるわけでは無い。
以前ならば鳴り止まない誕生日コールに酔いしれ、ジョークの一つや二つ連発していた所だが、正臣の世界を支配するのは単純な静寂である。

「絶対、絶対臨也さんのせいだ……」

犯人はほぼ確実と言っても良いだろう、雇い主の折原臨也である。
自分が屈辱の夢の旅に出ている最中、携帯を隠すか何かの嫌がらせを働いたのだ。

「(これは許せない。俺の誕生日くらい好きに祝われてもいいだろうに)」
「(ただでさえ毎日こき使われているんだから)」
「(あほ。馬鹿。眉目秀麗なんて嘘っぱちだ)」

ごろり、と革張りのソファーに寝転びながら、心中で呪詛を吐き出せば、コチリ、と歩を進める秒針。
このまま眠ってしまおうか、と意識を奥底に沈めれば、それを遮るかのように、固定電話のコールが痛いほどに正臣の鼓膜を揺らした。

「っるせ、はいもしもし」
「やあ正臣くん。目覚めの悪い君でもしっかり起きられるように、電話のコール音を最大にしておいてあげた俺に感謝してよ?俺ってやっさしいー」
「ちょ、ま、あんた、ッ」
「はいはい、苦情なら後で聞くからさあ、ちょっと俺の言うことを聞いてくれない?」

淡々と、仕事を依頼する時に似た声音は、愛する恋人の誕生日に贈るものとは思えないくらい冷めていた。
だが、以前にもこのような語調に惑わされたことのある正臣は、その奥の奥底、隠し切れない好奇心がちろりと舌を覗かせていることを知っていた。

「何、すればいいの」
「聞き分けの良い子は好きだよ。じゃあ、キッチンの隅に黄色い薔薇の蕾があるのは分かるかい?それと、その下の引き出しの中に君の携帯がある」
「はあ!?」
「いいから。早く」

思考を満たしたのは「やはりお前か」という嫌悪と、言い知れぬ不安であり、自らその罠に飛び込むような真似は極力避けたかったが、言う通りにしないと状況の発展は望めないのは確かである。
正臣は子機を片手にキッチンへと出向き、2分後には黄色い薔薇の蕾と、ご丁寧に電源の切られた携帯電話と対面した。

「揃ったみたいだね」
「何なんですか、本当。いい加減にしないとマジで怒りますよ」
「それじゃあ、グラスに水を一杯注いでくれるかい?話はそれからだ」

まるでその場に居るかのような臨也の態度に、背筋を冷たいものが走った。
納得のいかないままに、冷えた水を透明なグラスに注ぎ込む。

「じゃあ、ここで正臣くんにはどちらかを選んで貰います」
「は?」
「自分の携帯かその黄色い薔薇の蕾、どちらかに水をかけてください」

つ、と。
腹底が未知なる恐怖から詰まるのを感じた。
――何だ?この人は一体何を考えている?
グラスを片手に立ちすくむ中、くつくつと受話器越しに聞こえる、悪意が煮詰まったかのような、いやに人間らしい笑い声が正臣の脳髄を侵す。

「君の携帯は確か防水機能は付いていないよね?」
「……はい」
「じゃあ水をかけたら壊れちゃうねえ。どうする?帝人くんやら、杏里ちゃんやら……皆からのお祝いメールも無くなっちゃうね」
「でも、別に携帯くらい、」
「携帯くらい。携帯くらいかあ。もし、君が携帯に水をかけた場合、帝人くん達には俺から謝罪メールを送っておくよ」
「、」

『謝罪メール』。
その単語に背筋にぞくり、と悪寒が走る。
意味の分からない選択肢を突きつけられ、ただでさえ恐怖に縛られていた正臣だが、そこに親友である帝人が加わることで、なぶり殺されるような形容し難い感情に襲われた。

「ほら、俺が前、撮ったじゃない?君のちょっとやらしい姿。嗚呼、帝人くんは喜ぶかもね?友達の一線を越えられるかもよ」
「やめて、臨也さ、」
「まあ、それだけじゃ可哀想だから、ちょっとしたヒントを上げよう。花言葉。花言葉だ。実に簡単なゲームだよ、正臣くん」

グラスを持つ手が力無く震える。
唯一のヒントである花言葉に縋るが、どう頭を捻っても花言葉で関連する思い出は無い。
どくり、と高鳴る心臓と反比例して底冷えする心中は、何よりも黒く冷たく、臨也の声がゆっくりと反響し、判断能力を根こそぎ奪っていく。

「さあ」
「ッ、」

携帯か。薔薇の蕾か。
受話器越しの相手が常人の神経をしていたならば、正臣は迷い無く薔薇へと水をぶち撒けていたことだろう。だが今は違う。一歩間違えば大転落である。思い出せる限りに、臨也の癖や、言葉や、一つ一つを繰り返し、ゆっくりと染み込ませていく。
花言葉。
一つ深呼吸をする中、臨也が薄く笑みを浮かべているとも知らずに。

するり、と。
勢い良く、グラス内に波打つ水を、自らの携帯に浴びせかけた。


静寂。
相手の息遣いも、零れた笑いも聞き取れない。
何よりも存在を誇張する心臓が、臨也に聞こえてはいないかと不安になる。
どくり、どくり。どく。どく。
そっとグラスを置き、既に使い物にならなくなった携帯を見据え、力無く声を出す。

「いざや、さん」
「…………なんで携帯に水をかけたの?俺はちゃんと言ったよね。いいの?帝人くん達との関係が壊れても」
「……これ、水をかけると花びらが開いちゃう奴ですよね?前、テレビで見ました」

少し萎びた様子の、黄色い薔薇の蕾を人差し指で突く。
以前、テレビで見たものは赤い薔薇だったが、それは水を吸い込み、艶やかな大輪の花を咲かせた。それと、目の前の小さな蕾を重ね合わせる。

「臨也さん、前、言ってたでしょう?あの紅い薔薇やつ見ながら。薔薇の蕾は、俺の誕生花なんだって。花言葉は『可愛らしさ』でしたっけ?」
「……うん」
「それで、花の色は黄色。それが開いちゃったら、」
「黄色い薔薇の花言葉は、薄らぐ愛、恋に飽きちゃった。蕾から花開く、その姿に掛けて『可愛らしい君に俺はもう飽きてしまった』だ。よく、覚えてたね」

遮るように紡がれた臨也からは、何の感情も読み取れない。
ただ純粋に、迷い有りとも、脅迫しても、合っているかどうかさえ分からない花言葉にかけた正臣の判断に歓喜しているのか。否か。
ただ、無理矢理吐き出されたような嘲笑に満ちた声が、儚く小刻みに震えていることに気付き、ある推測をぶつける。

「臨也さん」
「、」
「何、泣いてるんすか」

泣きたいのはこっちですよ、と。
そんなわけないじゃん、と帰還してきた、最早強がりにしか聞こえないそれを繰り返す臨也に、不思議と笑みが零れる。
たった20分にも満たない突飛なゲームだったが、ほぼ脅迫に近いそれは疲労感に変わり、どっと正臣の全身を浸す。

「あんた、こんなことでしか俺があんたのことが好きとか、愛してるとかの確認ができないんですか。言葉足らずな人だなあ、しかも今日、俺の誕生日なのに。最悪だ」
「誕生日だからこそだよ、」
「あ、帝人達にメール送るのは無しですよ。だってゲームでしょう?俺の圧勝だし」

正臣はカラカラと軽口を叩きながら、彼なりの愛を確認する術である、黄色く濁った蕾を弄ぶ。
本格的に嗚咽を漏らし始めた臨也を、不覚にも『可愛い』と感じてしまった自分は何なのだ、と自問自答を突き詰めるが、それを上塗りするように、もう一つの花言葉を思い出す。

「臨也さん、あんた本当面倒臭いです。それに、俺とあんたに似合うのはどちらかと言えば白い薔薇の蕾でしょう?」
「はは、なにそれ……正臣くんも大概キザだよね」
「あんたに言われたくないです」

コチリ。もう一歩、秒針はゆるやかに、だが確かに時が過ぎたことを知らせる。
現在時刻は0時24分。
誰よりも面倒臭く、キザであり、純粋でありながらあくどい。
臨也の涙に濡れた声しか聞こえない静寂の中、返信の来ないメールに困惑する親友の姿を思い浮かべ、苦笑する。
薔薇の蕾。
臨也が帰ってきたら、自分には似合わない『可愛らしさ』の象徴を突き返してやろう、と。正臣は、小さい愛の形にそっとキスをした。






あなたもわたしも、愛するのには若すぎるから、遠回りなことをしてしまうのね
キザな野郎だ。(白い薔薇の蕾…愛するには若すぎる、心にもない恋)




本当にありがとう。一日遅れてハッピーバースデイ。
2012 0620(−1)* ...神崎幸








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