※多重人格ネタ/元ネタ曲あり/小説リハビリ用/本当は没物だったんだ



異変に気付いたのは、彼と何度も顔を会わせるようになってからだった。
黄色から青へ。色を変えたと思えば、いつのまにか紫へ、そして緑、例えるなら順に色を発していく虹だ。
そして俺はこの少年に狂気染みた、けれどもまだ幼い感情が覗いていることに気付く。

この子は掴みどころがないんじゃない。
"掴むものがない"んだ。

「折原さん」

昨日は"臨也さん"と呼んでいたのにどうしたことか。
つい数時間前まで真っ赤に顔を染め上げて微笑んでいた少年の面影はどこにもない。

「どうしたの正臣くん」
「名前で呼ばないで下さい。それと気安く触れないで下さい馴れ馴れしい」
「ふうん…」

昨日は"名前で呼んで"と俺に懇願して居たのに、どうだ、昨日の記憶はすっぽりこの子から抜け落ちて、おまけに人格まで変形しているらしい。
髪を梳こうとしていた手をぱしり、と叩かれ、辛辣な言葉で壁を作られてしまった。勝手に緩む口元を必死に隠し、「ごめんね」と微笑む。

最初に感じた違和感はごく単純なものだ。
それは言葉使いが違ったり、性格の大幅な変化、おまけに好きな食べ物や雑貨の違い、こうして見ればまるで別人。

多重人格。

この少年に嵌め込まれた人格は俺が把握している中で主人格を含め約10人。
主人格に続き比較的大人しい子、陽気でポジティブな子に気の差が激しい(様にツンデレ)子、性的なことに特化した子に、無口に肉食系、ドSにふわふわっ子に泣き虫ときた。
俺も今まで生きてきてまだ多重人格の人間を観察したことがないので、正直この少年"紀田正臣"には驚かされることがいくつもある。
今だってそうだ。

「紀田くん」
「……なに」
「手、繋ごっか」
「…っ、」

息を詰まらせ、羞恥か憤怒からか頬を赤く染めた正臣くんはそろそろと俺の手に自分のを重ね合わせ、ペットを引っ張る飼い主のように俺を引きずりながらずんずんと歩を進めてしまう。

「(この子は、気の差が激しい子)」

"この"正臣くんと会うのは久しぶりだった為か、柄にも無く幾分緊張しているらしい。
不安からか緊張からなのか、ふるふると微かに震える手を不覚にも可愛いと思ってしまう。

昨日は大人しい子だった。一昨日は肉食系の子。そのまた前は陽気な子に続き、もう一つ前は主人格らしき子が途中から姿を現した。
何とも面白いものだ。誰一人として俺を同じ目で見る子は居ない、十人十色とは正にこういうことだろう。

いつの間にか彼の震えが止まり、先程よりも上がっている歩行速度に苦笑しながら制止する。
慌てて通常の速度に戻した正臣くんは、変わらず赤く彩られた頬を隠すように俯きながら俺の手を引く。
揺れる茶髪から覗く赤色に自然と顔が綻ぶ。

「…かわいい」
「っ、は、はあ!?ちょっ、…は…、ばっばかじゃないんですか!!」

―――声に出ていた。
危ない、気をつけなくちゃ。まったく俺らしくもない。
取り繕うように話題を逸らすが、より色を増した彼の頬は当分通常の色に戻ることはないだろう。
そんなことを考えながらぼんやりと正臣くんの顔を眺めていれば、唐突に"何か"が変わったことに気が付いた。

「……あれ、どこ?ここ」
「あ、」

人格交代。
あの気の差が激しい子は羞恥のショックで奥に引っ込んでしまったらしい。
惜しいことをしてしまった。もう少しあの子と楽しんでいたかったが、交代してしまった後にぐちぐち言う訳にもいけないだろう。他人格を知らない"この子"に合わせるしかないのだから。

さあ、君はだれ?

「…いざ、やさん」
「正臣くん?」
「なんで、手、繋いでんすか」

主人格の紀田正臣。
あからさまな嫌悪感を滲み出しているその顔に、紅潮した頬の名残は一片も無い。
嗚呼、残念。でもそれで良い。
扱い易くちゃ意味が無い。

「また覚えてないの?記憶飛ぶ癖治しなよ」
「いや、治すって言うか…なんか、気付いたら居た、みたいな。いや、それはどうでも良いんですけど何で手繋いでるんですか」
「んー?正臣くんから繋いできたんじゃん」
「嘘吐かないでくださいよ!俺がそんなことするはずないじゃないです、か、っ」

煩わしい口は塞いでしまうに尽きる。
正臣くんの言い分を聞き終わらないうちにその手を強引に引き寄せ、深く舌を入れ込んだ。
すると見る見るうちに染め上げられていく頬。視線はいくら恨みがましくても、自分でもその熱を感じ取っているはずだ。

一個人の人格を優先してこう言うことをしているわけじゃないけれども、越えても良い線駄目な線は弁えていると自負しよう。
その中でも主人格は一番好意的だ。
なにより反抗的でありながら極めて従順。気の差が激しい子とはまた別の反逆心が心中で渦巻いていて、扱い易くも難くも無い。

「正臣くん、甘いね」
「…や、…ちょ、…」

しっかりと正臣くんと視線を絡ませながらわざと淫靡な音を立てて舌を吸ってやれば、自然にびくり、としなる細身の身体。
熱と欲で濡れたその瞳に自然と俺の心拍数まで音を立てて増幅していく。
そんな中、期待と不安に塗れた正臣くんの表情をどこか遠目に、俺は最も残酷なあの台詞を吐くのだ。


「君の中の一人だけを愛しましょう」


時間が止まる。
彼の時間が、紀田正臣の一人の人格が、止まる。

―――さあ、君はだれ?





惹かれてたのは俺の方?








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