臨也さんが珍しくぼっちじゃないよ!(´Θ`)

Merry Christmas!小説(ぬるエロ。いやエロくはない)
 小ネタの「わるいおとな」(臨正)からちょっと続いてたり。\長いよ!/
 ビッチ臣。ゴメンネエエェ!



恋わずらい。

紀田正臣には好きな人がいる。
"いる"と言う表現には少し語弊があるかもしれない。
胸奥に秘めてあるこの感情はある一人の男によって"好き"と位置づけられただけで、本当に好きかどうかすら当の本人である正臣でさえ分からないからだ。

見たことも聞いたこともない料理を目の前に皿一杯にだされて、笑顔で「食え」と強要してくるその人に逆らえず謎の物体を口に運べば好きとも嫌いとも言えない味が広がる。首を傾げていれば、半ば強引に「この料理好きだろ?」と捲くし立てられ意味も分からず取り合えず曖昧に頷いてしまった。
本当にそんな現状なのだ。

未知なる料理を食して、それが好きか嫌いかなんて今までの飲食経験を通して判断するしかない。恋愛も然り多くの可愛い女性達を相手にしてみて、言い方は悪いがその子が「アタリ」か「ハズレ」かが判断できるようになるのだ。
まだ童顔染みた幼馴染とは違い、決して恋愛に疎い訳ではなく寧ろそう言う話には精通していると自負している。
だけれども苦戦してしまう。

正臣が抱える未知の"好き"は数多く相手にしてきた美少女達ではなく、既に成人した艶やかな男に向けられたものだったからだ。

「まっさおみくん」

噂をすれば何とやらと言うやつか。
未知の料理兼正臣が恋をした男――――――折原臨也は軽い口調で正臣に詰め寄ると、気だるそうに振り返った少年の耳朶にそっと息を吹きかけた。
ぞわり、と無数の虫が背中を這い回るような感覚に寒気を覚えた正臣はソファーから飛び降りて臆すように数歩距離を取り、犯人を強く睨み付ける。

「っ何するんですか…!!」
「はは、いや。ほら、今日クリスマスだし。ちょっとおふざけくらい良いかなって、」
「良くありません!」

くすくすと笑みを隠すことのない臨也を見て、正臣は彼が幾分機嫌が良いことを感じ取った。
それもその筈、今日は誰もが待ちに待ったクリスマスである。
大通りやショッピングモールには親子連れやカップルがごった返し、色とりどりのイルミネーションが飾られ街は普段より何倍も鮮やかに着飾っている。
全人類を愛していると言ってのける臨也にとっては人間達に著しい変化が見られる行事がどうやら好きで好きで仕方がないらしく、いつもより上機嫌に正臣の反応を楽しんでいた。

――何で来たんだ、俺。

思わずホロリと吐き出た本音にくらりと波打つようにこめかみが痛む。
折原臨也からの"来い"とただ目的だけを告げた断片的なメールを断る術はいくらでもあった筈だ。けれども正臣は現実にその誘いを絶つことなく、躊躇しながらもこうして臨也のマンションへと一人で訪れたのだ。

「正臣くん」
「、」
「顔、真っ赤」

耳元で弾けた艶かしい低音が腰に響く。
いつの間にか直ぐ傍まで迫っていた臨也に気づけずに両手を纏め上げられてしまった。
頭上に重ねられた正臣の両手はそのまま壁へと押し付けられる。

堪能するように、じっくりと。
視線から、嗅覚から、音の塊から。
睨み付ける正臣にくすり、と笑みを送り臨也はパーカーの中に艶かしいその指を侵入させていく。
まるで捕食者が餌の味を舌上で転がし自分自身を焦らすように。
赤い瞳は蔑みにも歓喜にも似た色を放ち、独特の甘い香りと喉奥で噛み殺し切れなかった笑いが正臣を犯す。

「(…むかつく)」

抵抗しても後が酷くなるだけだと理解している正臣は、静かに臨也の愛撫を受け入れながらさらりと揺れる黒髪を見つめる。
普段正臣から臨也を求めることは皆無だ。
キスをする時も身体を重ねる時もほぼ無理矢理に近い状態であり、正臣自身に行為を楽しむ余裕など無かった。
だがこうしてゆったりと焦らされ合間を持たされると度々思わされることがある。

「(首細い。肌白い。睫毛長い。良い香りする)」

折原臨也と言う人間は、歪んだ性格と思考を取り除けば至って感じの良い好青年なのだ。
人並み以上に整った顔付きは誰もが羨み、痛みを感じさせない黒髪は女性負けしていない。
艶やか。
昼の顔も、夜の顔も。誰もがそう感じせざるを負えない。
テーブルに置かれたシャンパンが曇り一つ無いグラスに反射する。

「なに考えてるの」
「、っぁ…」
「はは…むかつく」

細い指が正臣の胸の突起を強く押し潰していた。
小さく漏れた嬌声ににやりと笑う臨也だが、行為に集中していない正臣に苛立っているのが見て取れた。

「ねえ、なに考えてたの」
「…臨也さん」
「そんな人恋しそうな瞳で見つめないでよ」
「だから臨也さん」
「なに」

愛撫を止めて不機嫌そうに瞳を細める。
質問の答えを言ってやったと言うのに、何を勘違いしてか臨也は更に悪くなった機嫌を纏い正臣から離れた。
予想外の行為に目を見開いた正臣の視界に、歪んだ笑みが映り込む。

「…君が俺のことしか考えられなくなればいいのに」
「(とんだ独占欲だ)」
「俺が居なきゃ生きていけない身体になればいい」
「(あんたは俺が居なくても生きていけるクセに)」
「俺だけに愛を囁いて、俺だけと肌を重ねて、その瞳に映るのは俺だけになれば」
「(あんたは浮気ばっかじゃん。俺だけ駄目なんて、)」

「正臣くん、君ってさ」
「臨也さん、あんたって」


"ずるい"



苛立ちと嫉妬に混ざり合った二つの瞳が、交差する。

欲に溺れる人間は汚いと誰しもが言う。
だが独占"欲"に溺れた二人の目は驚くほどに澄んでいた。
一瞬驚愕を見せた臨也に対し、正臣は動じることなく彼を見据える。
「ずるい」。
その一言に篭められた思いは少しの違いはあっても結果的に同じものだ。
我侭だと知っていても、理不尽だと分かっていても自分だけのものにならないかと悩み、苦しみ、その削られた隙間を埋める為にこの気持ちの原因となる者の身体を求める。

「臨也さんはずるいです」
「…正臣くんだってそうじゃん」
「臨也さんの方がずるい」
「ずるくない」
「だって浮気ばっかだ。そんな普段から愛してる愛してる言ってたらそりゃ信用されなくなりますよ」
「正臣くんに言われたくないんだけど。さっきだって俺以外のこと考えてたくせに」

―――――あんたのことだっての。

やはり勘違いをしているらしい臨也に鬱積とした思いが募っていく。
自分から素直に「愛している」と伝えなかった結果がこれだ。臨也の場合、常日頃から「愛している」と撒き散らしていたことが原因となってしまった。

嫉妬と独占欲。
よりによってクリスマスの今日に爆発させるべきものではないと思うのだが。

もう一度正臣に被さり不満気な表情で首筋に吸い付く臨也を小さく拒む。
そうすれば予想に従じて、悪態を吐きながらキスを荒くする臨也。
大きな子供みたいだ、と小声で呟けば開き直ったような自嘲の笑みを曝け出す始末だ。
声が、芯を蝕む。

「ねえ、正臣くん」
「…なに、っ」
「俺のこと愛してる証拠、みせて」

絡まって絡まって、どうにもならなくなってから後悔する。
過去の正臣には女に尽くしても決して溺れることはなかった。今となっては本人には遠い思い出だが、恋愛の仕方までそうそう変化することは決して簡単なことではない。
それを、一から塗り替えられた。

「臨也さんもみせてよ」

待つのではなく、仕掛けるのだ。
数年前の臨也に底辺から縫い付けられた教訓。
それに頼るのは正臣にとって癪だったが、教え込んだ当の本人が奥底でそれを望んでいるのだから仕方がないだろう。

誘うように笑んだ正臣を見て胸の奥底から沸き起こる欲情を臨也は本能のままに受け入れていた。
それは正臣も同じだ。

愛を証明する行動を一人考え込んでいると、臨也が見兼ねたように深くため息を吐き出した。遠回しに急かされても思考は付いてくることを拒み、二人ただ立ち尽くすと言う奇妙な絵面になる。
未だ首を傾げる正臣に2回目のため息をプレゼントすると、臨也はテーブルからシャンパンのボトルを持ち出し正臣に掲げて見せた。

「これ」
「…なんですか」
「久しぶりに強いやつ買ってきたんだよね。ほら、クリスマスだし?」
「……飲め、と」
「グラス無しで一本全部飲んで。大丈夫、急性アルコール中毒になってもちゃんと対処してあげるから」

勿論臨也の言動には証拠も、寧ろ正臣に対する愛の欠片さえ確認できない。
笑顔で強要してくる内容は死ねと同じものである。
大体、正臣自身に臨也を"愛している"と言う実感はない。
過去に愛した女へ向けた感情とはあからさまに異なる"愛"だからだ。そのことを臨也は少なからず認識していることだろう。

「…じゃあ、臨也さんも飲んでください」
「は?」
「思いつかなかったので臨也さんもそれでいいです」
「でもボトル一本しかないからさ、無理」
「だから、それでいいです」

怪訝そうに眉を寄せた臨也を尻目に正臣は彼の持っていたシャンパンを引っ手繰るように奪い素早く壁に叩きつけると、即席のシャンパンシャワーを自らに浴びせかけた。
床に広がるシャンパンと鼻腔を刺激する独特の甘苦さ。
正臣の服や髪も同じくシャンパンの香りと色に侵され、段々と湿って行く。

「……頭、沸いた?」
「違いますやめてください」
「俺、飲めって言ったんだけど」
「飲みますよ。けれど臨也さんも飲んでください」
「大丈夫?本当におかしくなっちゃったの?」
「抱いてください。俺が被っちゃったから、全部舐めとってください」

臨也は思いもよらない正臣の誘惑に自身が熱を持ち始めるのを感じる。
互いに酒に強くない性質だ。嗅覚からも酒の香りに侵食されていく。

「珍しいね。普段の正臣くんからは考えられない行動だ」
「俺だって分からないんですよ。あんたに向けるこの感情は、昔持ったことのないものだから」
「愛を証明するにも根本的なものが分からない、ねえ」
「あんたが選んだやり方を俺も選んだんです。俺も舐めますから、臨也さんも舐めてください」

なにその殺し文句。クク、と喉底で笑いを噛み殺しながら、従順にも正臣のシャンパンに濡れた頬を舐め始める臨也。
ピクリと身を強張らせた反応に機嫌を良くした臨也はつつ、と白い腹筋を指でなぞった。
せっかくのクリスマスなのに、と自らが招いた結果を今更に呪う。

「ひゃ、っぁ、」
「感度良いね。興奮してる?」
「シャンパン、…っに、当てられただけです、ぁ、」
「いいね。独占した気になる」

快感から逃れようと身を捩じらせれば、視界の端にちらりと白いものが映り込んだ。
つられて臨也も視線を向ければ、その存在に一瞬思考が停止する。

大きなガラス窓一面に浮かび上がったそれは、真っ白な雪と見慣れた筈である煌びやかな夜景だった。
雪が降るだけでこんなにも違うのか、と呆然と眺めていた正臣は胸筋を掠めた唇の感触に腰を揺らす。

「ホワイトクリスマス」
「……シャンパンまみれで、なんか」
「被ったのは君だしね。自業自得だよ」
「それは自業自得って言うか、」
「まあ何しろさ、」

夜は長いから。

そう言って口付けた臨也はいつもより感度の良い正臣の胸に唇を這わせる。
恐ろしいと心底感じながらも、正臣はそのままに臨也が生み出す快感を受け入れていた。


紀田正臣には好きな人がいる。
"いる"と言う表現には少し語弊があるかもしれない。
胸奥に秘めてあるこの感情はある一人の男によって"好き"と位置づけられただけで、本当に好きかどうかすら当の本人である正臣でさえ分からないからだ。

「…舐めとってくださいよ、全部」
「了解」

正臣が抱える未知の"好き"は数多く相手にしてきた美少女達ではなく、既に成人した艶やかな男に向けられたものだったからだ。

「これからも、よろしく」

過去には得られなかった。
けれども今は知っている。

恋わずらいが、始まった。





わるおとな
(捕まったんじゃない。)
(捕まえさせてやったんだ。)












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