のりこさんお誕生日おめでとうございます…!(^///^)完璧に出遅れた。
拙い文ですが捧げさせていただきます!
リク◎幸せな臨正



いつもの放置だ。

「臨也さん」

名前を紡げば、曖昧な返事だけが帰還してくる。
午後の昼過ぎ、昼飯を食べ終わった後、さっさと帰宅しようとすれば、「珈琲でも飲んでいってよ」という雇い主――もとい臨也さんの誘いかけに応じてしまい、この有り様である。
向かい合わせのテーブルにどさりと山積みされた本の束。臨也さん自身が目を通している本の表紙は、見たことも無い英単語で覆われていて、俺が理解できる訳が無く、自然と会話は失われる。

「臨也さんって眼鏡とか掛けるんですか」
「んー」
「コンタクトとか?元から目が良いとか」
「んー」
「……1+1は?」
「2……違う、あ、嘘、2だ」

駄目だ、これは。
臨也さんが乱読家ということは知っていたが、ここまで人は周囲に気を配れなくなるものなのか。
しかし大まかな仕事の報告も終えていないこともあり、そこはかとなく帰りづらい。
何を責められているわけでもないのに、冷気を帯びた静寂が肩に圧し掛かり、酷く息苦しい。

「臨也さん、やっぱり、俺」
「大丈夫……後、少しだから。其処に居て」

静かな語調で圧され、思わず口をつぐんだ。
コチリ、と歩を進めた秒針が、眠気を誘い出してきたので、ふるふると頭を横に振るが、今の臨也さんが俺の動作に気付く筈もなく、ただ静かに時は流れていく。
こういう時、嫌なものが臓腑の奥で渦巻くのだ。

――俺よりもっと可愛くて優しい子なんか、たくさんいるのに。
彼の横顔を眺めながらふと考える。

俺より格好良い子。俺より可愛い子。俺より大人しい子。俺より優しい子。
多彩な人間関係を築きながら何故俺を選んだのか。

ペンをくるくると片手で持て遊び、不規則なリズムで机を小突く。
秒針に合わせて拍子を取っていると、不意に臨也さんが視線をこちらに向けた。

「つまらないって顔にも行動にも全部出てるよ」
「あ、ごめんなさい」
「いいよ。もう終わるし。孤独感に駆られるいたいけな子供を放置するのも気が引けるからね、構ってあげよう」

視線を上げられず、本を置いた彼が足を組み直すのをただじっと見ていた。
降り注がれる苦笑に罪悪感が増幅する。

「構ってくれなくて結構です」
「嘘吐き。ふうん、何、またくだらないことでも考えてたのかな?いや、君にとってはくだらないと言ったら失礼千万なのだろうけど。まあ俺にとっては十分くだらないことだ」
「俺にとっては大切なことなんです。良いですよ、もう」
「ああ、うん、例えば、帝人くんとか」
「はあ?」

唐突に登場した親友の名前に、間の抜ける声が出た。
合わさった視線を逸らすことなく、臨也さんは暖かい笑みで続ける。

「君より帝人くんの方が優しいよね。君より杏里ちゃんの方が大人しいし、君より波江さんの方が仕事が出来る。怖いけど。君よりシズちゃんの方が強いし……キリが無いけど、君より優れた面を持った子なんて腐るほど居るよ」

どこか宥める様な口調に、先程の思考全てをほとんど見透かされていたのだと気付く。
この人はずるいのだ。嗚呼、怨めしい、恐ろしい。
赤い瞳は真っ直ぐに俺を捕らえ、決して逃すことは無い。

「じゃあ、なんでその中で俺が好きなんですか。なんで俺を抱き締めたり、俺にキスしたり、その、そういうこと」
「君が好きだからだよ」
「だから、なんで俺のことが好きなのかって、」
「君が好きだから。それ以外に理由が要るの?」

子供が親に未知の行為を尋ねるかのような、純粋な疑問に満ちた瞳は、これ以上の論議は無駄だと俺に認識させた。
自然に出たため息もそのままに、ぽすりとソファーに雪崩れ込む。
俺の様子にくすり、と笑みを零し、一口コーヒーをすするその人。

「そうだねえ、あえて言うなら、正臣くんが正臣くんだからかなあ。君だってそうでしょう?俺より優しい奴とか、俺より可愛気のある奴とか、もっと一杯居るだろうに」
「それは」
「同じことだよ。俺も人間だからね。君と同じ」

俺と、同じ。そう心中で繰り返せば、ほわりと柔らかい温度が胸底に灯る。
好きという感覚を臨也さんと共有しているような気分になり、酷く心地が良かった。
勢いのままにがたり、と起き上がり、テーブル越しにも関わらず、驚きに目を見開く彼の手を強く握る。
と。

「じゃあ」
「まさお、」
「俺が大きくなって、帝人より優しくなって、杏里より大人しくなって、波江さんより仕事が出来て、静雄さんは無理だけど……っ、臨也さんを守れるくらい強くなったら、」
「、」
「結婚しましょう。その時は、臨也さんから、言って」


暖かい静寂。
一呼吸の間に吐き出したプロポーズ混じりの決意はふわふわと泡になっていく。1秒ごとに、ゆっくりと。
秒針が何回鳴いたか、臨也さんの手に赤く痕が付くくらい長く握っていれば、「痛い」と苦情をぶつけられた。

「そういうことじゃないよ、」
「え」
「そういうことじゃないけど、そういうことにしておいてあげる」

不覚にも、心臓は大きく高鳴るのだ。
その笑みはあくどさとか、嫌味とか、主成分と成り得るものをすっぽりと蒸発させたような、いやに綺麗な笑みだった。
つ、と流れるように臨也さんの細い指が俺の頬を滑り、近い、と思った瞬間には苦味を帯びた何かが触れた。

「……苦い」
「大人の味だよ」

それはどこか「まだまだ子供だなあ」と笑われている気がして、けれども「さっさと大人になりなよ」と急かされている気もして。
赤く染まった頬を何と言い訳しようか、と考えながら、俺はもう一度その苦味を強請った。






純恋花
君が君だから必要なんだ





――――――
のりこさんお誕生日おめでとうございました(*´▽`*)
出遅れてすみません……!言い訳染みていて申し訳ないんですが急な用事が入りましてごにょごにょ……。
まだまだ未完成な文ですが、お祝い品として捧げさせていただきます!
どうか今年がのりこさんにとって素敵な一年になりますように。

◎返品・書き直し可。

2012 0619 ...神崎幸






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