*箱庭入場許可証の氷室乙夜様へ記念として捧げさせていただきます! *お世話になってます、いつもありがとうございます(*´ω`*) *リク『なかなか口に出せない』 He jests at scars that never felt a wound. (他人の傷痕をあざわらうのは傷の痛みを知らぬやつだ) ――シェイクスピア『ロミオとジュリエット』 第2幕第2場より引用 シンプルかつ高級感あるスタイルで整えられた、とあるマンションの一室。 目の前の男に言い聞かせるように、少し皮肉げにその一文を読み上げる。 正臣の心情を知ってか知らずか、皮肉の対象となる折原臨也は完璧な発音でその一文を繰り返す。 その行動すら苛立ちを覚え、くまのカップに入ったコーヒーを一気に飲み干した。 「他人の傷痕をあざわらうのは、傷の痛みを知らぬやつだ。ロミオとジュリエットだっけ?」 「良く知ってますね」 「シェイクスピアの視点論には少し興味があってね」 臨也は正臣の嫌悪の視線を軽やかに受け流し、その英本を奪い取る。 数歩遅れて奪還を試みるが、臨也は笑みを浮かべ音読を始めた。 「O Romeo, Romeo! wherefore art thou Romeo? (あぁロミオ、ロミオ!どうして貴方はロミオなの。)」 「いざやさ、」 「O, be some other name!What's in a name? (あぁ、他の名前になって!名前には、何があるというの?)」 まるで天を仰ぐジュリエットのごとく、気高くしとやかに言葉を紡ぐ臨也。 滑舌の良い、心地よく響く臨也の声に呆けてしまう。 そんな少年の様子をクスリ、と笑い、臨也は正臣の手を絡め合わせながら更に続ける。 「That which we call a rose By any other name would smell as sweet. (私たちがバラと呼ぶものは、他のどんな名前で呼んでも、同じように甘く香るわ。)」 ワルツを踊るようにくるりと一回転をし、彼は正臣の手にそっとキスを送る。 ぱちり、と目が覚めたように、正臣は勢い良く飛び退いた。 「っな、な、なにを、」 「えらいえらい。たまにはこういう読み物も大事だと思うよ」 へらりと笑った臨也はロミオとジュリエットの本を返却し、どかりとソファーに座りなおした。 頬が赤く色付いていくのを防ぐ術も無く、ちょこりと隅に腰掛ける。 心に余裕をもたらす為に、適当に開いたページの文を小さく小さく復唱していく。 「あ、そこ発音違う」 「ひッ」 「そこは『シ』じゃなくってもっと巻くように、」 「あああもう!!臨也さんは黙っててください!」 はいはい、と苦笑混じりに肩を竦めた臨也は、適当な雑誌を手に取り黙読し始めた。 普段より数倍も速いであろう鼓動。 臨也の自分への興味が薄れたことに安堵し、正臣も物語の読み解きを再開する。 ジュリエットに助けを求められた修道僧のロレンスは、彼女をロミオと共に添わせるべく、仮死の毒をつかった計略を打つ。しかしロミオはそのことを知らず、ジュリエットが死んだと誤認し悲しみに暮れる彼は、毒で自殺する。その直後、仮死状態から目覚めたジュリエットは自らを短剣で刺し、ロミオの後を追う。事の真相をしり、悲観に暮れる両家は後に和解する…。 「言葉足らず」 自然とそういう言葉が出た。 運命と言うべきか、当たり前と言うべきか。 分かち合うまでの言葉が足りなかった。 何故すれ違う結果となったのだろう。何故悲劇を迎えることになったのだろう。 「いいんじゃないの?二人とも天国に行けてさ」 「……天国があるなんて分からないじゃないですか」 「はは、どっちにしても愛する人を思って死ねたんだ。ある意味幸せだよ」 正臣はぱたりと本を閉じ、小さく臨也に寄りかかった。 一瞬、彼の身体が硬直したが、知らない振りをして続ける。 「臨也さんがジュリエットだったら、俺の後を追ってくれますか」 「なにそれ。……残念だけど御免こうむるよ。俺は死ぬのが怖いからね」 「じゃあ、臨也さんが死んだら俺が後を追います」 「それも嫌だな。俺は天国から君の落ちていく姿を見ていたいから」 天国を肯定し、尚且つ自分がそこに行ける人間だと信じている男。 正臣は一つため息を吐き、臨也と視線を合わせた。 「そんなのずるいですよ」 「はは、ずるいね。そうだな……じゃあ、正臣くんが俺の後を追うには、一つだけ条件がある」 含めるように間を置いて、臨也は試すような笑みでその先を言う。 「正臣くんが、俺を殺してくれるなら」 ぱちり、瞬きの瞬間、額に柔らかいものが触れた。 それが唇だと理解し、正臣は臨也を拒むように彼の口元を手の平で覆う。 笑みを消し去り、正臣の指の先を小さく噛む臨也。 「あの頃は可愛かったのに。何より俺に従順だった」 「おかげさまで憎たらしくなりました」 「だからこそだよ。君は、俺の人生に終止符を打つだけの価値がある」 柔らかく正臣の頬をなぞり、くつくつと喉奥で笑う男。 「ねえ、正臣くん。一緒に天国に行こうよ」 「……あんたなんか、大嫌いだ」 「うそつき」 臨也は歪に口元を歪ませ、正臣に口付ける。 先程のように拒否はせず、そっと臨也の首筋に顔を埋める。 鼻腔を掠める花の香りに入り混じりながら、甘ったるく溶ける思考のままに心中で呪詛を吐く。 ―――大嫌いだ。 ―――だからこそ、言えない。 ―――俺も臨也さんと同じことを考えていたなんて。 ―――ねえ、臨也さんは俺を殺してくれますか。 ―――物語の二人のように、愛する人を追ってなんて綺麗なものじゃなくていい。 ―――臨也さんの手で俺を殺して、重く重く後悔してくださいよ。 ―――それが、ずっと口に出来ない。口に出来なくていい。 ―――少なからず、あんたを信用してることになるから。 ―――まあ、どちらにしても、 「嘘吐き者は地獄に落ちるんだけどね」 Words, words, words. Liar thing falls to hell. ***** リク『なかなか口に出せない』ということで書かせていただきました! 氷室乙夜様のご希望に沿えていない未熟な文ですみません…! 拙いものですが捧げさせていただきます。いつでも書き直させていただきます! →「o」が消えているのは仕様です´`* 2012.0421 ...神崎 |