【フリリク】凛様へ
臨正で甘。我侭臨也と流され正臣。



只今午後6時19分。
折原臨也のマンションにて。

普段と変わることのないきらびやかな街明かりにぼう、と意識を溶け込ませた。
汚れ一つ無く磨き上げられたこのマンションの巨大なガラス窓も、所詮人間観察に使われているとなれば夜景の感動も何も無いだろう。
人間観察、それはこのマンションの主であり正臣の雇い主である折原臨也の異常な性癖だった。

全人類全ての者をを平等に愛し、その人間全てを受け入れる。
そんな博愛精神を振りまいているくせに、愛する人間達に事件の火種を投げ付けるのを辞めはしない。
無意識のうちに舌打ちをしてしまった俺は、雇い主がシャワーを浴びている最中にさっさと帰宅の準備を始めることにする。
大体何もかも割に合わないのだ。
金額はそこらのバイトよりズバ抜けて高いと評価ができるが、折原臨也はそれに見合う厄介な相手だった。

片手で机に散乱した書類をかき集めもう片方には既に鞄を装備し、小煩いシャワーの音から逃れる為に足早に玄関へと向かう。

が。
ドアノブへと手を掛け引っ張ったが、普段どちらにも開くであろうそれは何度やってもガタガタと無意味に音を立てるだけだった。


「は?え?ちょ…なんで…、」


何度激しく揺らしてもどちら側に傾くこともないそれにもしや扉に細工したのか、と不意に寒気が背を襲う。
確か鍵は空いていた筈だ。
臨也さんは鍵を閉めに行った様子も無い。
新しくオートロックでも取り付けたのかと考えたが、それならカードキーやタッチパネルなど何かしらのロック解除装置があるはずだ。
だが玄関自身に著しい変化は見られない。

それなのに、どうして。

そこでようやく、シャワーの音が身を潜めていることに気がついた。


「正臣くん、もう帰るの?」
「、」
「ね、まだ居てよ」


鼻腔をかすめた風呂後特有の花の香りと、耳朶を打つ通りの良い声。
甘えるように淡く掠れた声音に、自然と下腹部が詰まるのを感じる。
嫌々ながらもその気配に振り返ろうとした、が、それはいつのまにか俺の背後へと近づいていた臨也さんに後ろから包まれ遮られてしまった。


「いざ、やさん。俺もう帰るんですけど」
「やだ」
「子供じゃないんですから…!俺だって用事があるんですよ?」
「やーだー」
「大体扉に細工までして…」
「だってどうせ帝人くんの所行くんでしょ?」


細工をしていたことは認めるのか。
訝しげに見つめれば、交わった視線に乗って帰ってくるのは嘲笑と嫌悪に満ちた光だけだ。
く、っと背後から首元を絞める形で抱きしめられたそれに、焦燥と不安が肩代わりして喉奥が詰まる。


「…帝人は、ただ今日泊まる約束をしていただけで、」
「へえ。泊まる約束。ふうん」
「それで…早く、帰りたくて」
「恋人である俺を差し置いて。ほおー…まあ、いいけどさ。行きたければ行けば?」
「臨也さん、言葉と行動が一致してないんですが」


首元にぐるりと回された手が俺の呼吸を拒むかのようにどんどん力を強めていくのを、ただじっと耐える。
上目遣いでその血にも似た光を称える猫目を見つめれば、綻ぶ口元とは似ても似つかない弱々しい視線とぶつかった。


「…正臣くん、正臣くん」
「くるしい」
「ごめん。嘘、行かないで」
「……行けばって、言ったくせに」
「うん、だから嘘。やだ。寂しい。行っちゃやだ」
「…馬鹿じゃないんですか」


この人はいつもそうだ。
分不相応なやり方で俺を試しては飽きたと同時に放置する。
試すと言っても、ただ言葉で翻弄するだけなら易いものだ。
この人は、臨也さんはわざと自分の弱い部分を見せつけて良心の呵責を無理矢理に引き出す。

じっとりと、じくじくじくじく。
内側から侵食を始め、やがて身体の隅から隅まで浸透していく。
この人の言動はまるで致死量ぎりぎりの毒薬みたいだ。

ずるい、ずるい、ずるい。
心底、ずるいと思う。


「帝人が心配するから…、臨也さん、」
「じゃあ今日は行けないってメールすれば」


自己中心的な態度が癪に障る。
嫌だ、となんとか臨也さんに縋り付くようにその瞳を見つめれば、唇に触れた感触。
捻じ込まれた舌に少し抵抗を見せれば、それが気に入らなかったのか舌打ち混じりに俺の脇腹を爪で引っ掻く。


「ふ、っぁ…、ん」
「携帯、貸して」
「ちょ、やだ…っ、臨也さ、」


視界が熱と涙で揺らぐ中、不覚。臨也さんは素早く俺の携帯を取り上げ、もう一度唇を深く繋ぎ合わせた。
生理的に滲む涙と息苦しさ、その中で携帯のフラッシュ音と舌と舌が絡まり合う淫靡な音が耳奥まで俺を侵す。
くつくつと喉奥で堪えられた笑いはそのままキスへと反映され、より一層奥へと入れられた舌にびくり、と勝手に身体がしなる。


「感じてる」
「、っ」


唐突に突き飛ばされ、腰の抜けた俺はずるずるとドアにもたれ掛かりながら座り込んでしまう。
妖艶な笑みを隠さぬままもう一度写真を撮ると、乱暴に携帯を投げ捨て満足気に俺へと覆い被さった。


「……なに、送ったの」
「分かってるクセに。キ・ス・画・像」
「あんたっ、」
「いいの、そんな顔して。酷くなるの嫌なんだろ?」


最もな言い草に顔を顰める。
最悪だ。きっと今の俺は惨めで見られない顔をしてるだろう。
過去のその"酷い時"の記憶が蘇り、情けなくも震える指先をつ、っと臨也さんの頬に這わせる。
猫のように目を細めそれに応える彼。


「帝人には、ちゃんと、弁解してください、ね…、」
「…気が向いたらね」


正臣くんの態度次第、と。
臨也さんは行き先に戸惑う俺の指を甘噛みし、くつりと笑んだ。


扉は、まだ、開かない。





ストーカー
「接着剤でくっ付けちゃったって言ったら…怒るかなあ」






―――――――――――――
凛様、フリリクありがとうございました!
強引な我侭臨也おいしかったです!正臣はあっちの方は流されやすい感じだとおいしいですよね…!(´Θ`)
できればもっとちゃんとなんやかんやしてちゅっちゅして甘くしたかったのですが…!
すみませっすみませっウワァァァァァァァ;▽;
ありがとうございました!





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