9999hitありがとうございました!
遅れてすみません…!ろち正で舐めあったり。全然ぺろぺろしてないです(∵)
※血液表現あり注意。


鈍く揺れる電灯。
薄暗い路地裏に実に6人の男達が少年を囲む。
――しまった。
紀田正臣は脱出口を探すが、この狭い路地裏で男6人に立ち塞がれてはどうしようもない。

些細な喧嘩だった。
とある女性店員をほぼ脅迫に近い形で口説き落とそうとしている輩を、小突いてやろうとしただけ。

「お前、高校生だよな?ンぁ?どうしたビビっちまってんのか、らァ!」
「なんだよぉせっかく良い女だったのによぉ、どうしてくれるんですかぁ」
「ふは、どうするよこいつ、ちょ、どうする?」

男達は口々に挑発の言葉を吐き出す。正臣は構わずにどこか抜け出せる隙が無いかじっとりと辺りを睨み回した。
だがどうすることも出来ず、後方、集団の一人であるバンダナを巻いた男が鉄パイプを振り上げたのを確認した瞬間、正臣は跳躍した。

「、ッごぁ、ふ」

前方に居た男の鳩尾を深く蹴り付け、そのまま身体を半回転させながら後方から振ってきた鉄パイプを受け止める。
少年がそのまま倒れ伏すと想像していたバンダナの男は目を見開き、そのまま顔面に肘鉄を叩き込まれた。
それぞれ強い打撃を喰らった男2人が、地面に倒れ込む。

「(あと、4人)」

男達が余裕をかましていたからこそ出来た行動である。
残り4人の目付きが変わったと思えば、右腕を熱の塊が切り裂いた。

「っぐ、ぎ、…!」

右腕の肘辺りをナイフで斬り込まれたらしい。即座に怪我の具合を図るが、それも額への衝撃により妨害される。
視界が暗転し、膝から崩れ落ちそうになる。その瞬間、鋭い蹴りが胸を抉った。

「っやってくれるじゃねえかこのガキよぉ……さっさとシメちまおうぜ」
「こいつ等完全にのびちまってるわ。鉄パイプもう一本持って来い」

――やべ、俺、死ぬかも。
額への一撃が致命傷だったらしい。視界が果てなく歪む。
ちかり、視界の隅で何かが光るのと同時に、鉄パイプが空を裂く音が聞こえた。

「なにやってんだよお前ら」


ぐちゅり。
音。
不快感を詰めあわせたような音。
第三の主の声が酷く聞き慣れたものであることに安堵し、ふと目を瞑る。

「い゛ぁああぁ、ぐあぃ、ぁ」
「うあ、わ、ちょ、ちょちょ、ッ」

骨を無理矢理に剥がし捲るようなギシリギチ、という歪な音が身体に染み込んでくる。
この音を正臣は知っている。
一切の容赦も無く締め上げられた腕が限界を迎え、奇妙な方向へ捻じ曲がる音。悲鳴合唱に続きバタバタと慌しい足音が遠ざかっていく。

男達の呻き声が聞こえなくなった頃に目を開けば、視界満面に彼の顔が入り込んできた。

「……ちかげさんだ」
「死にそうだなオイ。待ってろ、今救急車呼んでやっから」
「いい、です。大丈夫です、呼ばないでいいから」
「けど、」

右腕の傷口を労わるように空中で指を泳がせる千景に対し、正臣は礼も言わぬままにただ淡々と救急車を拒む。

「いいから。あいつ等、俺が気絶させた奴も連れて逃げたでしょう?」
「え?ああ、糞野郎共のことは心配するだけ人生の無駄っつーか、あいつ等は後できっちりシメとくからお前は自分の身体だけ心配してろ」
「今から追いましょう。あんまり遠くに行ってないだろうし、俺は大丈夫です」

千景を押しやるように気力だけで身体を起こす。
浅く切り裂かれた右肘に激痛が走るが、それも気にせず立ち上がろうとする。
が。
ガシリ、と。
掴まれた左手からつ、と視線で辿れば、意味が分からないという表情でこちらを見上げる千景が居た。

「ちょっと何言ってるのか分からない」
「俺の台詞です。離してください」
「正臣」
「何」
「死ぬぞ?」
「だからこれくらいじゃ人間は死なないんです。しかもあいつ等、お姉さんを脅迫してたんですよ?あんたの大嫌いな女の敵じゃないですか。ほら、早くい、」

途中で言葉が途切れたのは、千景に後ろから強く抱き込まれた為である。
全身を襲う鈍痛と疲労感に苦笑しながら、無茶な体勢でストローハット越しに彼の頭を撫でてやる。

「わがままだなあ千景さんは」
「マジで死ぬから」
「だから死なないって言ってるのに」

苦笑いを返せば、首筋に生温いものが触れた。
ぞわり、と全身の肌が粟立ったが、拒否する間も無く生温い――彼の舌は正臣の額、次に鎖骨を弄び始める。

「な、に、ッ」
「消毒してんの。どっちにしろこのままだと駄目だろ。だから舐めんの」
「ばか、っざけんな、くすぐ、ひっ!」

自分じゃ到底舐められないような場所を、丹念に舌で刺激される。それに加えて激痛が走るのだ。
身を捩って千景の手から逃れようとするが、彼がそれを許す筈も無く。

「ち、かげさ、」
「鉄の味がする」
「傷口、舐め……っ、余計、ひどく、」
「知ってる」
「じゃあ、なんで、」

そこで正臣はある事に気がついた。千景が舐めているのは擦り傷や、ナイフで裂かれた右腕の傷自身では無い。そこから垂れた血液や、打撲した箇所だけに舌を這わせているのだ。
傷口自体に粘液を擦り付けているのではないと確認し安心したが、千景の『消毒』の意図を知った正臣は深くため息を吐く。

「俺は何もされてませんよ」
「正臣はか弱いから喧嘩なんて似合わないんだよ」

湿った舌が耳朶をなぞる。ぞくり、と胸奥が騒いだ。

「血は、似合うけど」
「は、や……意味、わかんね」
「うん、俺、変態かもしれない」
「……知ってる」

細い指が腰骨の辺りでくるりと回れば、焦らされているような感覚に陥る。
身体を半回転させ、無理矢理に千景の首筋にをねっとりと舐め上げた。自らにされたことと同じように、鎖骨を、頬を、首筋を、この男は自分のものだと主張するように舌を這わせる。
抵抗しない千景に気を良くした正臣は、彼の口の端に付いた自らの血をぺろりと舐め取る。
にやりと笑んだ千景は正臣の指を咥え、味わうようにゆっくりと口内で転がす。

「ぁ、や、」
「おいしい」
「やり、すぎですよ」
「ね。このままセッ、」
「何が消毒だこのど変態!」

衣服の中にまで侵入してきた千景の指を叩き落とす。つまらなそうにちっ、と舌打ちをした彼を強く睨みつけた。
俺はこんな人より弱いのか、と正臣は改めて事実を受け止めたせいで、唇をわなわなと震わせていた。

「……でも、まあ、俺はあんたより弱いです。か弱いって言われてもしょうがないです」
「おっ、観念したか」
「けれども、それとこれとは話しが別です。そんなに俺を動かしたくなかったら千景さんがとっととあいつ等やっつけてきてください」
「、」

最後に、どこまでもあどけない笑顔を付け加えて。

「ね?」

余りにも様々な感情が混合した――決して純粋とは言い切れない笑顔。
束の間の硬直の後、千景はクックッとどこか嬉しそうに口の端を吊り上げる。

「戻ったら覚えておけよ。俺を走らせた罪は重いからな」
「あれ、恋人が傷つけられたのにあんまり熱くならないんですね」
「熱くなってるよ。でもそれ以上に正臣が可愛かったから」
「しね」

自らのストローハットを一回り小さい少年の頭にぐりぐりと押し付けると、いつもの軽薄な調子でどこか楽しげに道を往く千景。
今にも鼻歌を歌いだしそうな彼の背から感じられたのは、紛れも無い怒気。
雰囲気だけでは機嫌の良さそうな振りで誤魔化しているが、千景の心中を包むのは煮え滾るような憤怒だった。
少し煽りすぎたか、と襲われていた女性の安否では無く、千景が制裁を加える男達自身の命の存続を心配する。

「ああ、サツさんには捕まらないようにするから大丈夫ー」

そんな正臣の考えを見透かしたように、随分離れた場所から声を張り上げる断罪者。
"警察には捕まらない"ラインが果たして彼と自分では一致しているのか。
それさえも分からぬまま正臣は授けられたストローハットを被り直し、ただ一つの願いを零す。


「……どうか死人が出ませんように」







閻魔王様のお通りだ。




9999hit、共にキリリクありがとうございました!(^^)





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