【フリリク】せん様へ
お薬ネタ。甘×ちょびっとシリアスな臨正。

危ないお薬、ダメ、絶対。



ガリ。
ガリガリガリガリ。
嫌な音が響く。
ごくり、と馴染んだ薬を食道へと流し込んだ彼は、青白い顔で少年の頬を撫でた。

「美味いの?それ」

少年――紀田正臣の問いを鼻で笑い返し、折原臨也はついでに、ともう一粒サプリを口に入れる。
正臣は嫌悪から顔を歪め、頬を伝う指をぱしり、と叩き伏した。

「そんな青白い顔して飲むほど美味いもんじゃないと思うけど」
「……死ななければ良い。まったく、波江も長期休暇だなんてやってくれるよねえ。コンビニやらジャンクフードやらは嫌いなんだ。だったらサプリの方がまだマシだよ」
「料理くらい作れば良いのに。良い歳した大人なんだから」
「だったら正臣くんが作ってよ。眺めててあげる」

冗談とも本気とも取れる発言をし、臨也はソファーに座り込む。
溜息を一つ吐き出し、何故のこのこ来てしまったのかと数十分前の自分を深く恨んだ。


臨也の秘書である矢霧波江が休暇を取った。
雇い主である臨也はそれについて余り言及せず、長くても2週間はくだらないだろう、と二つ返事でそれを承諾してしまったのだ。
だが彼の予想を上回り、波江は約2ヶ月半その姿を見せていない。
勿論その間、資料整理や事務、私生活の家事等などは臨也が補うのだが、波江を雇ったことで数を増した事務仕事については、彼一人の手では追いきれなくなっていた。
だからこそ普段は情報収集役の正臣も、雑用として呼び出された訳なのだが。

「臨也さん、今年で幾つですか」
「永遠の21歳って言ってるだろうに」
「つまり成人は迎えてるわけですね。じゃあご飯も自分で作ってください」
「ちょっと、それは酷いんじゃないの。見てこの俺の状態。ご飯作る気力があったらそこの資料なんかとっくに整理してあるよ……」

放り出された携帯。枯れかけた観葉植物。床一面に散らばる仕事資料らしき紙。おまけに食事は三食栄養サプリ。
クッションで顔を隠し、ソファーに寝転がる臨也は疲れ切っていた。

「……正臣くん」
「何」
「飽きたからセック、」
「うるさい黙れ寝てろ」

臨也の言葉を遮り、ヌイグルミを投げつければ鈍く響く悲鳴。今池袋に行けば、彼は確実に明日の日の出を拝めないだろう。

「仕方ないな」
「え、」
「何が良いですか」
「正臣くんの好きなものが良いな」
「……オムライス」
「じゃあそれで」

見違えるほど華やかな笑顔を見せた臨也は、機嫌良く「シャワーを浴びてくる」と行ってしまった。
『新婚みたい』という想像を打ち消すように、ぶんぶんと頭を振る。

「毒されてる……」

正臣は後ろ髪を束ねながら、熱を帯びた吐息を吐き出した。


――――――――


「あーごちそうさまでした」

律儀にも両手を合わせる臨也は先程までと別人だった。
元から食が細い彼は一人前の食事で間に合ったが、どこか肌が艶やかに見える。

「はいはいお粗末さまでした。ついでに分かる限りで資料整理しておいたんで」
「ありがとう、流石俺の部下だね」
「……嬉しくない。帰る」
「ごめん、冗談。恋人」

少年のじっとりとした視線を流しながら、臨也はカラカラと笑う。
ふと目を逸らした先に在ったのは、臨也が食事用として飲んでいたサプリメントだった。

「変わった色してますね、あのサプリ」
「え?……ああ、あれは新羅に特別調合して貰った薬だからね。市販じゃ売ってないよ」
「へえ、新羅さんに。なんでわざわざ」

箱の蓋を開け、手に取ってみる。全体が紫と毒々しい色をしているだけで、市販のものと特に違いは見られない。
どんなものか、と一口味見してみようと口へ運べば、

「だーめ」
「、」

背後から忍び寄った黒は、正臣の口内に指を突っ込んだ。
舌を引っ掻く爪の硬さに驚き抵抗すれば、素早くサプリを没収される。
荒い息のまま臨也を強く睨みつければ、感情の読み取れない無機質な笑顔が顔面に張り付いていた。

「は、……なん、で」
「正臣くんにはまだ早いよ」
「サプリに早いも何もないでしょう、」
「いいから。まだ早いの」

臨也の隠すような態度が癪に障り、彼の背に抱き付く。
温かい心音とどこはかとなく漂うシャンプーの香り。

「まさ、おみくん?」
「なーんちゃって、」

驚愕からか不自然さからか、臨也が硬直している隙にサプリを奪い取る。
小さなケースの中で紫色の固形物がかたかたと跳ねた。
迷わず錠剤を口に運べば、笑み。

「え、」

ガリ、と噛み砕けば広がる甘酸っぱさ。味も市販のものと同様である。追って訪れた苦味に顔を顰めれば、臨也がくつくつと這うように笑った。

「君には強いって言ったでしょ」
「強いって、だから、何が、」
「違法薬物」
「……は、」

ざわり。胸奥で得体のしれない影が広がる。
速度を増す心臓に不安と恐怖が絡みついた。

「安心してよ。成人男性の依存性は低いらしいし、検出されても特別調合だから半分媚薬みたいなもんだってさ。上手く言い訳すれば逃げられるって」
「どういう、こと」
「そういうこと。まあ、未成年はどうなるか分からないけど」

身体の奥底から広がる影は段々と熱を持ち、じわりじわりと体内を侵食していく。
全身が昂ぶり、正臣は耐え切れず熱い吐息を零した。
霞む視界の中。ぽつり、と。
その黒色は、食事を終え『ごちそうさまでした』と言った時と寸分も違わぬ笑みで、独り言のように、ぽつりと呟く。


「その状態でヤったら、どうなるんだろうねえ」






Good bye days
毒されている。





――――――――――
せん様、フリリクありがとうございました!
お薬ネタと言ったらサプリメントやら危ないお薬だろうと勝手に自己解釈してしまいましてヒイイ。.・゜(^○^)゜・.。
もうちょっと自堕落といいますか荒んだ臨也を書きたかったです!また機会があれば、今度こそもっとだらだらな臨也を仕上げさせていただきたいと思います!
ありがとうございました(*´v`*)






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