未だランプが光り続ける携帯を無視し、取り合えずそこら辺の店へ足を運ぶことにした。 足を運ぼうと決めたは良いが、特に行く店の宛ても無いのが現状である。 適当に人並びのあるお菓子屋などをちらりちらと覗いてみるが、第一どんな物を送ればいいのか検討もつかない。 果たしてチョコは好きなのか、あの人はどこに居るのか。 仮にチョコは好きだとしても、それ以前に受け取って貰えるのだろうか。もしかしたら拒まれるんじゃないだろうか。 悶々と正臣が自問自答を繰り返す中、比較的落ち着いた、それでも可愛らしい店の一端で見慣れた女性の影を見た気がした。 「あ、」 ガラス越しに見えたその姿は、背筋をぴん、と伸ばし、真剣にチョコを見比べる波江だった。 波江も不意にこちらに気付いたらしく、どうするべきか取り合えずペコリと頭を下げると、こっちへ来い、と手招き寄せられた。 戸惑いながらも店へ入ると、開口一番、波江に二つのチョコを突き付けられる。 「え、」 「どっちが良いと思う?」 「ちょ…波江さん?」 「答えて頂戴。やっぱりこっちの青い方が良い?少し子供っぽいかしら。でもピンクだと派手過ぎなようがして、」 「待って、波江さんどうしたんですか」 「答えて頂戴ってば」 決死迫る波江の表情は、感情を読み取らせない無表情のままに仕事をこなす普段の彼女と余りにもかけ離れていた。 何も言わぬままにただただ返答を待つ彼女に、次第に事情も分からぬまま真剣にチョコを見定めてしまう。 「えっ、と…」 「どっち?」 「こっちの青い方のチョコにレース入れられませんか?店員さん、ちょっとこの中に入れて貰えます?黒いやつで」 正臣の呼び掛けに店員が黒いレースの端を持ち、快く中に詰めてくれる。 仕上がったチョコともう一方のチョコを見比べ、正臣の提案に酷く満足したのか、ふんわりとした笑顔でありがとう、と零した。 初めて見た波江の笑みに一瞬思考回路がタガを外し、一歩遅れてどもりながらどういたしまして、と返す。 「貴方中々良いセンスしてるわ。助かった」 「いや、その、なんて言うか…言われるほどでも、ないです」 「こういうことだけはハッキリ決め切れなくて…本当駄目ね」 動揺を表に出さないように、照れ隠しさながらに俯けば、店員さんが微笑みながら「弟さんですか?」と波江に話し掛けた。 対する波江は小首を傾げながら2、3度正臣と店員の顔を見比べ、「情けない上司に振り回される仕事仲間ってとこかしら」と微笑した。 店員は疑問を抱きながらもそうなんですか、と曖昧に笑み、残された2人は目を見合わせ苦笑する。 柔らかいその笑顔に、正臣の心は次第に和んでいった。 それからほんの少し時間が経ち、店の商品を適当に見あしらった所で波江は特製の黒いレースの装飾が施されたチョコを片手に、そろそろ行くわね、と正臣に手を振った。 「貴方は残るの?それとも出る?」 @店を出る A店内に留まる |