半ば予想していたが実際に目の当たりにすると居た堪れない。自分が。
チカチカとメール着信を知らせる光にチェーンメールであることを願ったが、現実とはそう上手くいくものでは無く。


【[送信主] 折原臨也 : [本文] おいで】


ただその3文字。
この3文字が正臣の今日を縛る足枷となる。
一つ深く溜息を吐くと、正臣は携帯を一瞥し、コートを羽織ると臨也の元へと急いだ。


――――――――――――――――


臨也のマンションに着き、何か気が乗らぬままにチャイムを押す。
どうせいつもの皮肉混じりの笑みが出迎えるんだろう、と苛々していたのだが、何分経っても扉が開く気配は無い。
何かあったのか、と思い切って扉を開けて中に飛び込むと、そこには満面の笑みを見せる二人の少女が居た。



「え……っ、は?えっと、え、ちょ、君達、」
「初めまして!」
「……初……」
「ちょっと、待って。君達、誰?」


まさか少女達が臨也に危害でも加えたのか、と疑問が浮かんだが、この柔腕では押し倒すことさえ叶わないだろう。
混乱に混乱を呼ぶ正臣の問いを笑みで返し、二人の少女は両側で正臣をしっかりホールドすると、ずるずるとリビングまで引きずりこんで行った。


――――――――――――――――


「臨也さんの、妹」


引っ張られたリビング先で少女達に"折原臨也の双子の妹"という事実を告げられ、困惑しながらもまじまじと二人を見比べてみる。
二人共目の色といい、全体的な雰囲気といい、確かに臨也に似ているのだ。
しどろもどろになりながらも簡易的な自己紹介を終え、女子二人に圧倒される正座の高校生男子という妙な絵柄になってしまう。


「あー…、えっと、俺臨也さんに呼ばれたんだけどさ。臨也さん居る?」
「あ、イザ兄なら寝てますよ!」
「はあ!?寝てる!?寝室で?」
「…安…眠…」


おいで、と挑戦的なメールを送っておいて何様のつもりだ、と舌打ちをし、さっさと帰る仕度を始めれば、両腕に絡みつく細い軽腕。
正臣の笑顔が固まる。
恐る恐る振り向けば、双子が帰らせまいと悪鬼の笑顔を振り撒いていた。


「二人、とも?」
「先輩、今日何の日か知ってます?バレンタインデーですよ」
「…甘…料…」
「ちょ、痛い痛い痛い、腕、」
「作りましょうよ。チョコ」


正臣はこの双子について考えを改めた。
目の色や雰囲気だけではない。一番似ているもの、それは妖気を纏った笑み。
リビングへ連行された時と同じ形で、またもや正臣はキッチンへと攫われることとなる。





「ああ、舞流ちゃんそうそう。それでそこに生クリーム入れて、九瑠璃ちゃん火止めてくれる?」


事の成り行きでチョコ作りを始めて15分。
しっかりとピンクのエプロンを纏った正臣は、何やかんやと拒否しながらも指示を出していた。
臨也の話で正臣の性格を理解している双子に踊らされていると知らずに、正臣はてきぱきと過程を終わらせていく。


「先輩料理得意なんですね!今流行の料理系男子みたいな?」
「料理系男子って。まあ俺くらいの男になると女の子のハートも料理できちゃうからね。冷めないうちに俺の思い頂いちゃう?」
「…先…面…」


談笑を交えてチョコを湯煎で溶かす正臣の姿を、洗い物を進行しながら眺める少女達。
臨也の妹だからといってその二人に対して正臣に明確な嫌悪感は無く、寧ろ好意的なものだった。
しかし鼻歌を歌いながらチョコを掻き混ぜる正臣の耳から脳へ、あるまじき発言が駆け抜ける。


「でも調理されるのはイザ兄じゃなくていつも先輩の方ですけどね」

(………ん……?)


舞流の深い意味を含めたような口振りに、正臣の思考が、行動が、停止する。
調理されるのは正臣。調理するのは臨也。
正臣の背中に冷たい物が流れ、顔に熱が集まり暴発する―――という所で舞流と九瑠璃が同時にあっ、と声を漏らした。


「先輩、これ生クリーム足りないかも!」
「料…器……足…?」
「…え、あ、ごめん、生クリームと調理器具?」


不可解な熱を誤魔化し、正臣は生クリームと用意していなかった調理器具を一応、と確認し始める。
分量を量り、器具を再確認してみれば確かに二つとも足らない。


「生クリームは買出しに行くとして、確か器具なら寝室にあったはずです!」
「選…買…?器…?」



@調理器具を寝室に取りに行く
A買出しに行く





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