デュラララ.小ネタ | ナノ


雨(臨正)



窓ガラスに打ちつける雨は存外強い。

だが正臣の目を引いたのはそこではなく、床に撒き散らされた大量の一万円札の残骸だった。

身体半分が炭になっているもの、血らしき赤く粘着質な液体に染まっているもの、既に原型を留めていないものと様々だったが、それは確かに少し前まで価値のある俗物だったのだと推測する。

正臣は混乱した脳をなんとか落ちつかせ、この現状の犯人であろう無機質な笑みを貼り付けたままの自らの雇い主を見つめた。



「なんなん、すか。これ」

「愚問だね。見れば分かるだろう、金だったゴミだよ」

「金"だった"、って…」



臨也はゆったりとした動作で腰掛けていたデスクから立ち上がり、その札クズを拾い上げ、正臣に掲げた。



「…金を積んでも正臣くんが俺を愛してはくれないことが証明されたし。だったら利用価値なんて無いよ」

「それ…それだけのために、こんな…」

「それだけのため、か。俺にとっては生憎重大なことなんだよねえ」



喉の奥底で噛み潰したような、皮肉混じりの笑みが雨音と共に反響する。

正臣はその嘲笑うかのような臨也の笑みを見て、複雑な欲求にかられた。
自分達は結して普通の恋愛などすることはできない。
どちらも歪み、歪まされ、愛憎と策略に押しつぶされて生きてきたのだ。

それでも。
それでも、正臣は臨也から離れるなどできなかった。

いつもいつも、それこそ四六時中と言っていいほど悩まされてきたこの思い。
酷く曖昧で、それでいて不確か。
例えるならば弱い恋愛感情のような、この頼りない感情に身を任せれば楽になれるのだろうか。



「臨也さん」

「なに、」



正臣は静かに臨也の元へと歩み寄ると、黒コートの裾を力任せに引き寄せて、触れるだけのキスをした。

瞬間。
なにもかもが、止まる。

停止、停止。
雨音が遠い残響に消え、臨也の笑みがぎこちない困惑顔に変わる頃、既に時計の針は2回ほど回転を終えていた。

唇を隠すように手の甲で押さえ、ぺたりと床に座り込んだ臨也。
正臣はその光景に少しの優越感を覚えたが、赤く火照る頬をなんて言い訳しようか、と言う思考に侵され言葉を発することは適わなかった。



「まさ、おみくん」

「金もこんなことされてはた迷惑でしょうね」



こちり。

もう一歩、歩を進めた秒針。
正臣は臨也に手を差し伸べ、なんとも呆れたようなため息を吐き出した。



「なんでこう言う意味不な行動にでるんですか」

「だって…本当に価値なんか無いな、って…俺、思って」

「馬鹿ですね。ほんっとうに馬鹿」


差し出された手を取り、呆然と正臣を見つめる臨也。

その途切れ途切れの口調が愛しくて、正臣は柔らかく笑み、そのまま臨也を抱き締めた。
ワンテンポ遅れてその意図に気が付いた臨也は、子供が親の真似をするように、おそるおそる正臣の背に腕を回す。

雨は依然と止む気配など無い。
ざあざあ、ざあざあ、ざあざあ。

灰色の雲に形作られた空の向こうで、稲妻が青く降るのを正臣はただ見つめていた。



(好きになってしまった)

(だから、もう、逃げられない)



今にも崩れ落ちそうに震える臨也。
どこかで予想していたが、今まで抱え続けていた複雑な感情が消失することはない。
抱き合いながら、正臣は背徳感の溢れ出す心中を必死に押さえていた。

だからこそ、気付くことが出来なかった。



(やっと捕まえた)

(だから、もう、逃がさないよ)



和らぐような温もりを直に感じながら、容易に罠にはまった少年を黒がくつりと嘲笑った。





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金欠ですが!!何か!!!



2011/09/23 18:51





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