相対した終曲に絡ませたそれは(臨正) ちかり、普段よりどこか強い日の光が、正臣の瞼を揺らす。 「あ、」 「おはよ」 寝起き相当の視界の悪さの中で発見する、黒。 その正体――折原臨也はコーヒーを啜りながら、単調な仕草で窓の外を指差した。 「金環日食だってさ。月の外側に太陽がはみ出して細い光輪状に見える、日食の一つだよ」 「……へえ」 「あはっ随分と興味無さそうだねえ。身体がだるいのかな?そうだね、君が駄々を捏ねなければ今頃帝人くんとかと金環日食観察会とか、」 「裸眼で太陽観察して失明しろ」 正臣の辛辣な言葉に臨也はカラカラと笑い、もう一口コーヒーを流し飲む。 と、どこか考え込んだような表情になり、臨也は真摯な態度である疑問を投げ掛ける。 「正臣くんが太陽だったら、俺は月かな?」 「…………天体になりたいなら静雄さんの所に行って愛の告白でもしてくれば?」 初夏でありながら絶対零度を失わない正臣の視線をものともせず、臨也は更に自分浸りの妄想を吐き出し続ける。 「君が太陽で俺が月なんて、いや、中々それもありだな。何百年に一回だけ計測できるなんて織姫と彦星も真っ青だよね」 「そうですね、あんたには冷たくて抗いようの無い様を表す月がぴったりだ」 「酷い言われようだなあ。でも、ロマンチックじゃない?月は太陽を永久に隠すことは出来ない。俺は精神的にも肉体的にも、君を隠して俺だけのものにしてしまうなんて出来ないんだよ」 「……どうだか」 くく、噛み殺し切れなかった笑みが臨也の表情を侵す。 「愛の行為をその目で眺めようとした者には光を失う罰を、なんて、馬鹿らしくも純粋に憧れるね。まるで神だ」 「無神論者が良く言いますね」 「そうだね。確かに俺は無神論者だ」 臨也はマグカップを置き、ゆったりとした動作で正臣に近づく。 初対面、または親密では無い者には気付けないであろう微妙な表情の変化を察知し、正臣は無意識に身構える。 「正臣くん」 「や、」 「二人で、赤い夢を見ようか」 しっとりと紡がれた、羨望の言葉。 彼独特の比喩表現である。 『赤い夢を見ようか』。 臨也はもう一度そう繰り返し、そっと正臣の額に口付けた。 「俺達だけの、俺達のためだけに作り出された夢の中で、俺は君と一生を終えたい。月と太陽なんて、やっぱり嫌だ。俺は向かい合うより、深く深く底で繋ぎあって、溶け合う方が好き」 「そん、なの」 「ん?」 「ただの、プロポーズじゃないですか」 ―――――――― キザな野郎だ。 2012/05/21 18:22 |