まにまに(六正) 忘れちまうからね。 人間ってのは忘れちまうもんだから。 どんなに楽しい記憶も、どんなに悲しい記憶も、いつかはどっぷり甘い液に浸かって、どこかに消えちまうんだ。 だから俺のことも忘れろよ。 ちょっと俺の嫌なところを思い出して、言葉に出して見れば良い。 「ばか。あほ。変態。スケコマシ。たらし。女好き。変態」 ほら、俺のこと、少しずつ嫌いになっていくだろ? それでいい。 俺のことを嫌いになって、顔も見たくないくらいに。 「顔も見たくありませんよ。っていうか見れないんですけど」 どれだけ歯の浮く台詞を浮かべても、お前は落ちなかったもんな。 でも、正臣は俺に甘いよ。 甘い甘い。 だから、さよならな。 「なんでさよならなんですか。なんで「だから」なんですか」 お前は俺に甘いから。 俺が一番になっちまうから。 俺のことを一番嫌いになって、全部全部忘れろ。 「忘れたいですよ。全部全部忘れたいですよ」 お前が俺を忘れた頃に、また来るよ。 また来て、お前の横でラブソングでもなんでも歌ってやるよ。 その時はもう俺のことなんか覚えてないだろうけど。 必ず帰ってきて、お前に一発殴られてやる。 だからその時まで忘れろ。俺を嫌いになれ。 それじゃあ、俺の最愛の麗しき恋人へ。 さよなら。 「どこ行ったんですか、千景さん」 ――――――――――― からっぽのラブソング。 2012/04/27 20:58 |