破壊者は笑う(臨正←??) ※死ネタ注意。 笑う。 笑う。 ただ、笑顔が笑顔であるためだけの笑みが、そこにあった。 「臨也さん」 黒に身を包んだその男は、笑顔を崩さぬままに顔を上げる。 片手には小さなバタフライナイフ。 鈍く光る10cmにも満たないそれを、彼は寝転ぶ少年に突きつけた。 「何」 「紀田くん、何で貴方を庇ったんですか?」 するり、と挨拶代わりにナイフの切っ先が少年の頬を浅く切り裂いた。 それでも微動だにしない少年からは、生気というものが感じられない。 「何で庇ったんですか」 もう一度、問いかける。少し、咎めるような口調で。 男は「この子の考えることなんか知らないよ」、と少年の身体にナイフの背を滑らせながら言った。 太股近くをさすり、慈しむように少年の額に口付けを送った男。 「俺は、生きてる紀田くんの方が好きでした」 「……ああ、そう」 ふと、男が微かに震えていることに気が付いた。 パタリ。 ソファから垂れた、おびただしい量の赤。 血。 脇腹に1発、足に2発。 硝煙の香りが微かに混じり、鼻がツンとした。 道化師はそんなことなど気にすること無く、事尽きた少年に深く深く口付ける。 弱々しく、情けなく震えながら、それでも笑みは崩さずに。 「俺もさ、直ぐ、そっちに行くから」 笑顔は笑顔として。 「だから、ちゃんと笑顔で向かえてね」 それ以上でも、それ以下でも無い。 ただの、笑顔。 手から伝わる妙に重たい金属の冷たさが、やけに鬱陶しい。 やがてただの肉塊となった二つの傍らに、枯れかけた紫のクロッカスの花を供えた。 「これで、ばいばい」 愛したことを後悔する。 2012/04/12 17:32 |