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世界が綺麗に終わると言う確証は無い(臨正)



「正臣くんってさあ、」

「、」

「本当馬鹿だよね」


するりと向けられたナイフに少年は生唾を飲み込んだ。
先程と変わらず柔和に微笑んだその男は、少年の喉下にそれを押し付け、わざとらしく肩をすくめてみせた。精神的な圧迫感を感じながら、少年はその男から目を離さずに半歩後退する。が、それすらも男は許さずに身体を半回転させて、少年を床に押し倒した。

瞬間的に内臓が吐き出されるかと錯覚するほどの痛覚が少年を蝕み、それに男が容赦なく覆いかぶさる。なんなんだ、と文句を言う余裕すら無い。
数秒のうちに組み敷かれた少年は目を瞬かせ、苦痛に顔をしかめながら男を見据えた。


「っ何して…!」

「はは、本当何て言うかさあ…あーつまんないの。本当につまらないよ、君って」

「答えになってないじゃないすか!」

「本当だよね、自分でもそう思う。でもさ、何か君って極端につまらない人間になったよ。つまらない、つまらない」


"つまらない"と言う単語を繰り返し吐き出す男。唇は綺麗な弧を描いているが、その瞳は別人かと思えるほどに冷たく少年を睨みつけた。
思わずもう一度ごくり、と唾を飲み込んだ少年は即座に理解する。ああ、これはやばいと。自分がこの男と関わってきた人生の中で、一番やばい瞳だと。

思考が鈍く警鐘を鳴らす。なんとか抜け出そうと試みるも、迂闊に動けばまだ首元に位置するナイフに自分から突っ込むことになる。どうすることもできずに、ただ少年は男を見つめる。
男は無機質な笑みを貼り付けたまま、少年の喉に押し付けたナイフをそのまま頬に移動させた。


「…臨也、さん」

「つまらない、って言うかさ。むかつくんだよね、君を見てると。俺がわざわざ君に精神的苦痛を与えようと色々な策を考えて考えて、それが成功して君が苦しんでる姿を笑って。それで良かったんだよ。それで君が俺の目の前から、興味範囲内から消えてくれればそれで全部予想通りだったんだ」

「なんでそれを俺に言うんですか?じゃあ俺が臨也さんの目の前から消えれば満足なんですか」

「そんな模範解答いらないよ。それで俺が喜ぶと思う?それで俺が満足すると思う?本当に?それが君の本心かい?」

「じゃあどうしろって言うんですか!」

「分からないんだよそれが自分でも!!」

「、」

「どうすればいいんだよ、俺は…もう、ああ…、なんで君は、」

「……いざ、やさん」


今にも泣き崩れそうに表情を歪めた男。からり、とナイフが滑り落ち、ぽたりと落ちた水滴が刃に反射した。
少年は自分がされたと同じように男の頬に拾い上げたナイフを押し当てる。組み敷かれている為自由に動けるとまではいかないが、なんとかその涙を掬い上げ、男の黒髪をさらりと梳く。
男は涙の溜まった瞳で少年を見つめる。と、同時に頬にちくりとした鋭い痛みが走った。思わず手で拭えば涙と血が混じり合い、男はくつりと自虐的な笑みをこぼした。


少年は考える。
ああ、この人はなんて弱いんだ。
少年は考える。
ああ、この人はなんて遠回りなんだ。
少年は考える。
ああ、この人はなんで愛情を知らないんだ。
少年は考えて考えて、
ああ、なんで。


「臨也さん、なんでそれを先に言わないんですか」

「、」

「臨也さんてさ、」

「なに、が」

「本当馬鹿ですよね」


(どうすることもできない。)
(ゆらり、ゆらゆら、がらり。)
(予想通り、こうして壊れていった。)

(ああ、俺は、馬鹿だよ)


世界が綺麗に終わると言う確証は無い。





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カッとなってやった。後悔は無い。



2011/10/14 18:27





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