共に歩む




・高校生
・生まれ変わり
・蒼紅のみ戦国時代の記憶あり
・ある意味死ネタ?















今になってもにわかに信じ難い事だが、これは紛れもない『事実』だ。





「Hey幸村!帰るぞ」

「政宗殿!」

皆が帰宅し、誰もいない教室から静かに降る雨を眺めていると、よく通る声に呼ばれた。

彼との出会いは高校の入学式であり、もっと前でもあった。


「政宗殿は、今日雨が降ると知っておりましたか?某は左助が言ってくれたのに傘を忘れてしまったのでござる」

靴を履き替えながら、寒くなる時期でもないし、今日は濡れて帰るか、と腹をくくれば、クスクスと笑う声が聞こえた。

「アンタらしいぜ。俺は置きっぱの傘があったはずだから、一緒に入れて行ってやる」

そう言って傘立てへ向かうが、そこには折れ曲がったビニール傘しか見当たらない。
他の傘立てにあるのかときょろきょろしていると、横にいた政宗は盛大な舌打ちをした。

「shit!前田の野郎……」

「如何いたした…?」

手元を睨みつけ苦々しい顔をしている政宗を見て、何があったのかと覗きこむ。
そこには、ちぎったノートに走り書きがされていた。
どうやら、政宗とよくつるんでいる前田慶次が政宗の傘を持っていってしまったようだ。

「『青春しろよ!』とは、どういう意味でござるか?」

確かに青春真っ盛りな年頃ではあるが、それと傘と何の関係があるのだろうか?

そんな疑問を抱えていると、政宗はその紙をグシャグシャに丸めてポケットに突っ込んだ。

「ったく、お節介な奴だぜ。sorry幸村。俺も傘無くなった」

幸村自身、濡れて帰ればいいと考えていたので、特に問題はなかった。
明日からは休みだし、濡れて帰るのも悪くない、と。

「構いませぬ!昔は雨の日なぞ濡れて当然でござった故」

「昔…な……。そういやぁそうだったんだよな……」

『昔』の話を聞いた政宗は、何故か少し悲しそうな顔をした。
しかし、すぐにいつも通りに笑いかけてくる。

「アンタん家よりは俺ん家の方が近けぇから、とりあえず俺ん家まで走るぞ!okey?」

承知の返事をして、競うように走り出す。


水溜まりだとか、泥の跳ね返りだとかを全く気にせずに走ったために制服はドロドロだったが、政宗は上手いことよけていたようで、服が雨に濡れただけだった。

「ちょっと走っただけで、どうしてそんなんになるんだ…?」

半ば呆れながら、自らの服を差し出してくる。
ひとまず受け取ったものの、政宗は依然洋服を取り出している。

「政宗殿が着るのでは?」

「アンタの方が重症だろ。洗ってやるからそれ着てろよ」

さすが一人暮らしをしているだけあって、手際がよい。
おそらくこのまま帰宅すれば、現在でも保護者状態である左助のお小言は避けられないだろう。
ここは、好意に甘えることにする。



「政宗殿は、昔から何でもこなしてしまうのでござるなぁ…」

洗濯をしている間、何をするわけでもなく、パカパカと切り替わるテレビの画面を眺めながら呟く。

「んなこたぁねえよ。俺にだって出来ねえことはあった……」

「政宗殿…?」

普段とは違う政宗を疑問に思い、その隻眼の横顔を見つめるが、感情は読み取れなかった。



「ずいぶん手間かけちまったな。前田には明日会ったらきっちり償ってもらうとするか!」

程なくして、洗濯から乾燥までが終了し、雨が強くなる前に帰れることになった。

「某こそ、助かり申した!これで左助に小言を言われずにすむでござる!」

洗濯をしてもらった上に、帰りのためにビニール傘まで貸してもらった。
そこまでせずとも、と断ったのだが、洗ったのが無駄になるだろ、と押し切られてしまったのだ。
「では、失礼いたす!」
借りた傘をさして、一度政宗を振り返れば「おう」一言だけ返ってくる。
その一言に顔をほころばせつつ、政宗に背を向け帰路につく。

先ほどより強くなった雨は、ゆったりと歩く自分の足音をもかき消した。

すると、後ろからは急ぐように誰かが走る音。
自分のように、傘を忘れてしまった人もいるのだなぁ、などと考えていると、その足音はどんどん近づいてくる。

一体どんな人なのだろう、と振り返ろうとした瞬間

どん、という音がしそうな程激しく、自分に衝撃が走る

「幸村……」

ずぶ濡れで自分に抱きついているのは、先ほどまで共にいた、政宗だった。

「ま…政宗殿!?」

ズボンの裾は泥だらけで、傘もさしていない政宗の表情は、濡れた髪が邪魔して見ることができない

「政宗殿…?いかがしたのでござるか……?」

自分を抱きしめ、一言も喋らない政宗は、酷く冷たい体をしていた。

衝撃で傘を落としてしまったため、冷たい雨が幸村を濡らす。

「すまなかった、幸村…」

自分の肩に埋まる政宗は、いつもの大きな彼とは反対に、小さく弱く見えた。

「すまねぇ…。だから、どこにも行くな…。勝手に、逝くんじゃねえ……」

ぐっと、政宗からの力が強くなり、その言葉を聞いた瞬間
強い嵐に吹き飛ばされたような感覚に襲われた。

「政宗殿…政宗殿…、幸村はずっとここにおります…」
それは、そう
何百年も前の記憶

今日のような雨の中、地べたに転がったまま動けない自分がいた。
腹部を中心に鈍い痛みがあり、触ればぬるついた温かいものが溢れている。

ああ、最早これまでか、と
そう思い目を閉じた時、薄れゆく意識の中で聞いたのはあのよく通る声。
あの言葉。

『勝手に逝くんじゃねえよ……』



あの時初めて、政宗の弱さを見た気がする。
それは酷く人間らしくて、何故か温かかった。



「…政宗殿、某はこの時代に…再び政宗殿のお側におられる事、大切にしたいでござる」

長年、暗闇の中に隠していた記憶が、今は全く恐怖ではない。

「sorry.見苦しい所、見せちまったな」

そう言い離れた政宗が髪をかきあげれば、その隻眼には強い光。
「こんな雨ん中でアンタが遠ざかるのを見たら、追いかけずにいられなくなっちまって…」

まだまだガキだな、と自嘲する政宗が妙に愛おしくなり抱きつけば、少し驚いた声をあげるも、力強く抱きしめ返してくれた。

普段なら破廉恥だと騒ぐ所だが、この雨だ。
誰も見ていないだろうと、しばらく政宗の胸に埋もれていた。





結局ずぶ濡れになってしまい左助には小言を言われたが、次の日は雨上がりの道を政宗と登校した。

学校につくなり、ニヤニヤした慶次と元親がやってきて、政宗に耳打ちをした。
それを聞いた政宗は、珍しく頬を染め、うるせぇ!と叫んでいた。

そんな政宗も、現世だからこそ見られるのだなぁ、と、嬉しくなってしまう。




これから先はずっと共に。
死ぬ時も、生まれ変わる時も……




『昔の事思い出して、寂しくなって雨ん中抱きつくなんて、案外乙女だなぁ、政宗…?』

『う…うるせぇ!』
shit.見られてたのかよ……






――――――――――――
反省
幸村って、こんな喋り方だっけ!?
筆頭が女々しい!?
これはダテサナなのか!?
まとめてお返事を…
ごめんなさい!

いや、書いてる間に何が何だか……

たまにはこんな筆頭もどうでしょう…?←


2011.11.1 葵都




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