家庭の事情で欠席させてください




「名前ー!!そのペンキ取ってー!」

「はーい!」


太陽も出たか出ていないか微妙な時間。
なぜ私たちがもう学校に集まっているかというと…

「あと二時間で始まっちゃうよー!!頑張ろー!!」
そう、あと二時間で文化祭が始まってしまうからだ。

そして、今年の目玉企画でもある、告白大会のパネルがまだ出来上がっていない事態。
なんとか間に合わせようと、朝早くから登校しているというわけだ。

「告白大会かあ…」

私の分担箇所を塗り終えてぼんやりとパネルを眺めていたら、隣から良く聞き慣れた声がした。
そちらを見れば、ちょっぴり寝ぐせのついたツナ君と、面倒くさそうにパネルを見ている獄寺くんがいた。

「あ、ツナ君と獄寺くん!おはよう。ツナ君は、参加するの?」

「ま…まさか!みんなの前で恥かくだけだし…。名前ちゃんは?」

慌てて否定したツナ君に質問を返され、無意識に獄寺くんをちらりと見てしまう。
やっぱりツナ君の向こう側で興味なさそうにしている。

「私にも縁がないかなー…」

私が密かに思いを寄せているのは獄寺くんで、その本人があの反応じゃ、それこそ恥をかくだけだし…。

「いや、名前ちゃんには何か縁があるような気がするから!」

根拠はないけど…と力なく続けるツナ君を見ていたら、笑いがこみ上げてきた。

「あはは、ありがとう。私そんなにこれに賭けてないから大丈夫だよ?」

一生懸命にフォローしようとしてくれるツナ君がなんだか面白くて、つい笑ってしまう。



その後パネル立てのために男子の召集があって、終始むすっとしていた獄寺くんと一緒にツナ君もステージへ向かって行った。

私はなんとか完成したパネルを一度だけ見つめて、教室へ向かった。









そうしてついに始まった文化祭。
私は明日の体育祭での見回り係があるだけだから、今日は1日自由に行動できる。

午前中は京子ちゃんたちといろんな出しものを見て回った。
どの出し物も気合いが入っていて、お化け屋敷なんてひっきりなしに悲鳴が聞こえてくる。
入ってみるかみんなで迷っていると、例の告白大会のアナウンスが流れた。
エントリーすると思われる人たちがステージの方へ向かって行く。

ぼんやりとその様子を眺めていたら、思い出したかのように京子ちゃんたちが大きな声を出す。「名前ちゃんごめんね!私お昼からクラスの当番があるの」

「そっかぁ、頑張って来てね!」

軽く言葉を交わして、クラスの方へ走って行った。
一人残された私は行くあてもなく、お昼を買おうと、屋台のブースへ向かった。

手近の屋台へ行くと、山本とツナ君がいた。

「おっす名前!寿司食っていかね?」

「す…寿司!?」

屋台班とは全然関わりがなくて知らなかったけれど、山本がお寿司屋さんの息子という理由で、お寿司の屋台を出す事になったらしい。

「あれ?獄寺くんは…?」

「ああ、なんか、ちょっと抜けるとか言って出て行っちまったんだよ」

きょろきょろと見回しても、獄寺君の姿は見えない。

「あ、あのさ名前ちゃん、獄寺君見つけたら帰ってくるように言ってくれる?」

そんなに忙しそうには見えないのに、と浮かんだ疑問は、後ろからの女の子たちの声ですぐに解決した。

「えー、獄寺君いないじゃん。ダメツナと山本だけー?」

「あとからまた来てみよー?」

つまり、女の子たちは獄寺くんから売って欲しいがために、買い渋っているわけだ。
私もその気持ちは理解できる。
山本もモテるが、獄寺くんの威力もすごいのだろう。


ツナ君からお寿司を買って、ステージの方へ向かう。
有志の漫才をぼんやりとみながら一人でごはんを食べて、ゴミ箱を探すと、視線の先に獄寺君を見つけた。

人だかりの奥にいる獄寺君に声をかけようと近寄るも、人の壁が立ちはだかった。

それをなんとかかき分けかき分け少しずつ進んでいると、急に周りの人たちが動き出し、一緒に押し流されてしまう。

「わ、きゃっ…!」

そのままどんどん押し流されて、気づいた時にはステージ袖だった。
何事かとステージの方を覗き見ると、客席からは黄色い声が響いている。

「京子ー!!好きだー!!」

「あ…持田先輩…」

この場にはいない京子ちゃんに告白しても返事が帰ってくるはずもなく、しんとした会場を一人去って行く背中はどこか寂しげだった。

しかし、カップルが成立する人も多く、その度に歓声とも悲鳴とも言える声でいっぱいになる。


「はい、次行ってください!」

ぼんやりと他の人の告白を見ていて完全に忘れていたが、気づいた時にはもう遅く、ステージ袖ぎりぎりまで押し出されてしまう。

「あ、あの!私エントリーしてな…」

ぐいぐいと押してくる実行委員を振り返ろうとしたら、突然後ろに肩を強く押された。

勢いでしりもちをついた時、小さな舌打ちが聞こえた。

「痛ぁ…」

何するんですか
と講義しようと実行委員を睨み上げようとした時、ステージから聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。


「名字名前!」

「ご…ごくでらくん…?」

ステージの真ん中に立ち、スポットライトの中から客席をしっかり見つめている獄寺くんがいた。

きらきらの光の中にいる獄寺くんは強い瞳でこちらを見た。




「好きだ。俺と結婚しやがれ!!」




結婚という思わぬ言葉に会場はざわついたけど、私には何も聞こえなくて。
一瞬の驚きと、そのあとにこみ上げてきた涙で何も言えなくて。
しりもちをついた格好のまま小さく「はい…!」と答える事しかできなかった。

だけど、すぐに獄寺くんが舞台袖に来て、強く抱きしめてくれたら、嬉しくて嬉しくて、腰が抜けてしまっていたけれど、私も彼の背中に腕をまわしたのだった。








「名前、明日は休め」
「どうして?」

二人っきりの教室。
獄寺くんは真剣な眼差しで口を開いた。

「…明日は風紀の手伝いで見回りなんだろ?」

そして小さく小さく呟かれた言葉。

「あんな男ばっかの所に行かせられるかよ…」


ああ雲雀さんごめんなさい。


明日は




家庭の事情で欠席させてください










いきなりプロポーズしてくれた、大切な旦那さん









fin




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若干長くなりましたが、『短編』です←

初獄寺夢いかがだったでしょうか?

この作品で、企画に参加させていただきました。
沈殿物
テーマ『学校生活』

ありがとうございました!

葵都







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