ふるまう


雲雀と家に着き、名前はリビングに招き入れた。

「君、一人暮らしなんだ。」

玄関の靴の数を見て、リビングのソファーに座り込んだ雲雀は言った。

「はい。初めてでいろいろ大変です。」

「使用人とかは?」

「そんなのいるわけないですよ!
何なら雲雀さんやってくれます?」

突然の言葉に、驚きながらも、雲雀であれば執事の一人や二人、有り得なくもないなんて思えてしまう。


「………。」

「じょ…冗談です。
笑ってくださいよ…!
…にしても雲雀さんて大笑いとかしないですね」

ほんの冗談で言ったつもりが、心底嫌そうな顔をされてしまった。

冗談が通じる人ではないとは思っていたが、そういえば笑っているところは見たことがない。


「僕はどこかのナッポーとは違うからね。」

「ナッポー…?」

「でも僕だって笑う時位あるよ。
そうそう見せたりしないけどね。
一瞬の隙が命とりになる。
人と慣れ合うなんて弱い者がする事だ。」

「じゃ…じゃあ見れたらレアってことですね!」思わぬ言葉にどう反応をしてよいのか、戸惑いながら返事をしたら、また雲雀に嫌そうな顔をされてしまった。

「え…えと、夕食作ってきますね。
くつろいでて下さい。 」


居心地が悪くなった名前は、慌ててキッチンへと逃げ出した。


さっそく調理を始めた名前であったが、緊張からか手を切ってしまった。

「きゃ!痛っ!」

「どうしたの?」

さして慌てる様子もなく、それでも雲雀は様子を見にきてくれたようだ。

「えと、手を切っちゃって…。」

「手出して」ペロッ

「な…何してるんですかっ!?」


雲雀はおもむろに名前の手をとり、傷口を口に含んだ。

突然のことに、名前の心臓は早鐘のように鳴っている。

「傷口から菌が入ってる可能性があるから、最初の血は出さないといけないんだ。」

「そうなんですか…
ありがとうございましたっ…」


大きな傷でないことを確認すると、雲雀はまたリビングへと戻っていった。

怪我に馴れているためか、応急処置をしてくれたのだ。

そうとわかっても、一度高鳴った胸はなかなかおさまらない。



しかし、なんとか夕飯を作り終え、二人分がリビングに並べられた。


「和風ハンバーグにしてみました!
どうぞ、食べて下さい! 」

「和風ハンバーグ…」

ハンバーグを見るなり、雲雀は言葉を止めてしまった。

「あ…あの、普通のハンバーグの方が良かったですか?」

クス…「いや、食べさせて貰うよ。」

「あっ……!」今笑った…!?


今は平然とハンバーグを食べ始めた雲雀を、ただ呆然と眺めてしまっていた。



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