来宅



恐る恐る応接室の戸を開けば、いかにも高級そうなソファーに雲雀が座っていた。

「ちゃんと来たね。はい、服。
…にしても一人で来たんだ」

「ありがとうございます。
…?一人ですよ?」

「いや、意味は無いよ。
僕は群れるのが嫌いなんだ。
用が済んだなら早く家に帰りなよ。」

「…?はい。さようなら」


今度は雲雀の言葉に首をかしげながら、昨夜の家についた名前。
もちろん家族はだれもおらず、しんと静まり返っている。

今日受け取った教科書類を置くと、電話帳が目に入った。
見知った名前も書いてあった。

「あっ私の家!!」

本来の家の電話番号をみつけ、かけてみた。

「はい」

数回の呼び出し音の後、聞き慣れた声がした。

「あ、私!名前!」

「どちらさまでしょうか?
名前なら帰ってますよ。かわります?」

「え…?」

思わず電話を切ってしまう名前。
そのままその場に崩れ落ちることしかできない。

「嘘…。どうなってるの…。」

その目からはとめどなく涙が溢れていた。



現状が掴めないまま朝になり、少しでも気を晴らそうと、学校へ向かった。




「おはよう。君、目、真っ赤だね。どうしたの?」


……どうしよう、雲雀さんに違う世界からきたなんていえない…

そんな考えから、とっさに嘘が口から出た。

「あはは…じ…実は失恋しちゃって…」


「……。授業はちゃんと受けてよ。
あと、転校書類で聞きたい事があるから今日も帰りに寄ってね。」

「はい…」

なんとかばれずに済んだようで、ほっと胸をなで下ろした。


「名前ちゃん!?
その目どうしたの!?
まさか昨日雲雀さんに何か……」

隣の席の沢田綱吉は、名前の顔を見るなり、ぎょっとして言った。


「ち…違うよ!夜更かししちゃって!」

「そっか、良かった〜。
あ、授業始まるね」
その日の授業も終わり、再び応接室へ。
「…君はいつも一人でくるよね。」

「どういう意味ですか?」
「特に意味はないけど。
この書類、前の住所書いてね。 」

どうしよう…

迷いながらも、自分の本来の住所を書いた。

「……知らない所だな。
もう帰っていいよ。」

「あっ…えっと、遠い所なので……。
雲雀さんはどこに住んでいるんですか?」


「並盛だよ。まあ、ここに泊まったりする事もあるけど」

「そ…そんなの体に悪いですよ!
ちゃんと家で寝たりしないと…。」

「まあとりあえず今日は早く帰りなよ。」

「…はい。」




暗い気持ち家に帰り、夕食を買うためにお店へ向かった。

すると店の前には雲雀がいた。


「雲雀さん、どうしたんですか?」

「このあたりに風紀を乱す者がいると聞いてね。
咬み殺してきた所だよ。
君は?こんな時間に何してるの?」


「夕飯の材料を買いにきたんです。
…良かったら雲雀さんもどうですか?」


今日はハンバーグにしようと思っているんですが、一人じゃ寂しいですし
と付け加えると、雲雀は仕方ない、といった仕草で頷いた。


こうして雲雀が家へ来ることになった。

この時名前は、雲雀の心の内どころか、自分の心すらわかっていなかった。




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