霧雲深く





本来なら一人静かに読書をしている時間。
今日も本を開いているものの内容が全く入って来ず、イライラする。


原因はわかっている。
あの二人だ。


ぱたんと本を閉じると、部屋の外から気配がした。

「君、ほんとムカツくよ」

声をかければ静かに扉が開き、骸が入ってくる。

「おや、そんなに彼女が大切でしたか?」

任務帰りのままの骸に攻撃をしかけても、いとも簡単にその槍で受け止められる。

「ふざけないで。君のせいでさっきからイライラしてるんだから」

骸は反撃をするでもなく、余裕の表情だ。

「あれは幻覚だったじゃないですか。君は、幻覚の僕には興味がないのでしょう?」

そう、彼女にキスをしたのは確かに骸の幻覚だった。
つまり骸自身ではないのだが、それでもあの瞬間頭に血が上って、何も考えられなくなった。

骸はただのカタキだと思っていたのに。


「ムカツくよ、ほんと…」

先ほどまでの苛立ちも忘れ、武器を下ろすと優しく骸に包まれる。
自分の想定していたシーンじゃないのに、だけど、酷く安心できた。


「彼女のおかげで素直になれましたね、お互い…」

いつもよりも優しい骸の声。
今日だけは、今だけは、こんな風にしていてもいいかななんて思ってしまうのは、末期だろうか。

「しかし、僕は幻覚でしたからまだしも、彼女にキスをしたのは許せませんね」


予想外の言葉に骸の顔を見れば、楽しげに笑っている。

「…君の自業自得だよ」

「クフフお仕置き、なんてベタすぎますかね?」

油断した。
ヴンという小さな音と共にツタが現れ、瞬時に手足を拘束されてしまう。
無言で睨みつけてやると、さも楽しそうに床に組み敷いてくる。

「今日くらい、彼女に免じてもっと素直になったらどうですか?」

そう言い首筋に添えられた骸の手がゆっくりゆっくりと鎖骨をなぞり、着物の合わせに滑り込む。

その優しすぎる感覚が妙に熱を集めて、熱い吐息が漏れる。

わかってて、それでも求める所には触れて来ない骸が恨めしい。

「象をも死に至らしめる毒薬に気力で勝った君も、快楽には弱いんですね」


楽しそうに、反応を堪能するように、上半身を滑る指。
いつの間にか拘束は解かれていたが、抵抗しようにも思ったように体が動かない。

ぞくぞくと体を駆け巡る感覚は戦いの前のそれと似ているが、今は骸の触れる部分にしか神経が届かない。

「これでも、ずっとこの肌に触れたかったんですよ」

そう愛おしそうに、乱れた裾から滑り込んだ手は、膝の内側から太もも、さらに奥へと進んでゆく。


もう、自分の負けだと思った。
決して口になんて出さないけど、与えられた熱も、高まってゆく心も、心地良いと、ずっと味わっていたいと思ってしまう。




そして、何よりこの男が好きなのだと




与えられ続け集中した熱は少し触れられただけで弾けてしまう。



「骸…」


名前を呼べば温かな手で包み込んでくれる。


「愛しています…」










やっと、10年が経ったのだと感じられた気がした










骸雲 fin






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