毎週火曜日の放課後の30分間。
ただジッとしているだけの時間だが、退屈だとか飽きたとは思わないのは軽い談笑と眠気を払ってくれるような視線のお陰か。どちらかわからないが、今日も相変わらず顔を赤くいるのは分かりきっていることだ。

「顔上げて」
「あ、すまん…」

言葉に反応し勢いよく顔を上げると白石はにこりと優しく笑った。キャンバスの向こう側にまた帰って行く姿を少し惜しいと思いながら、また会話を繰り返す。

「なぁ、白石」
「どないしたん?」
「絵描くの好き?」
「嫌いやったら今頃描いてないんとちゃうかな。案外バッサリしとる性格やし」
「へー意外やな」
「どっちに対して?」
「バッサリの方」
「なんやそれ」

クスクスと笑い声がの向こう側から聞こえてくる。そういえば、自分から質問をしにいったのは初めてだったかもしれない。そうだ、よくよく考えてみると俺は白石のことを余り知らない。周りから聞いた話や、自分が遠くから見た白石の"イメージ"しかしらない。本質的なものは全く知らない。ただ、優しそうなイメージや賢そうなイメージはピッタリと当てはまっていた。

「誕生日聞いてええ?」
「…?4月14日やけど」
「血液型は?」
「B」
「分かるわ。そんなイメージ」
「どんなイメージやねん」
「家族は?」
「父と母と姉と妹と猫」
「ハーレムやん」
「いやいや、姉妹姉妹」
「猫の名前は?」
「エクスタちゃん」
「酷いネーミングセンスやな」
「ほなどないな名前つけたらええねん」
「スピーディちゃん」
「壊滅的なネーミングセンスやな」

一瞬の沈黙の後、ブハッとほぼ同時に吹き出した。なんのへんてつのないただの会話なのに面白くて仕方なかった。楽しい、と心の底から思えた。白石はもっとおとなしそうな静かなイメージがあったが話してみると、俺と一緒のただの中学生の男子だった。結局イメージはイメージでしかないんだ。

「30分経った…部活行ってええよ」
「あ、ほんまや」

キャンバスから顔を出してバサリと大きな布を被せる。一度、絵を見せてくれないかと頼んだら、完成してから見て欲しいと言われたのでそれまで我慢しているがウズウズして仕方がない。いつ完成するのかはわからないが、火曜日の放課後30分間だけだから多分余り進んでは無いだろうなと思った。

「白石、」
「ん?」
「木曜も来てええ?」
「……へ?でも部活…」
「部活の最初の30分間は皆ゴンタクレを宥めたり、千歳探しに行くので忙しいと思うし。せやから俺は大丈夫なんやけど…ダメ?」
「あ、えっとよろしくお願いします」
「おおきに!」
「いや、それはコッチの台詞やから…」

おおきに、白石は綺麗に笑って言って見せた。同じ言葉でもここまで違うものなのだな、と感動した。

ほんとは、早く絵を見たいからではない。
もっと話したかったから。
もっと知りたかったから。
白石のことを。







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