あれから白石の病室を後にして、今は裏山にいた。もう何時間ここにいるのかさえ分からない。ただ、青く晴れた空はいつの間にか赤く染められていた。
何時間もいたお陰でだんだんと落ち着きを取り戻した。しかし泣かなかった。いや、泣けなかった。泣いたらバカみたいだと思った。それではまるで自分が被害者のようではないか。加害者である自分が涙を流す資格などない。
脳裏にはベッドで眠る白石の姿が何度も蘇った、なのに会いたいなんて考える自分は本当にバカだと思う。自分がずっと苦しめた相手をまだ苦しめ続ける気なのか。次に自分が会いにいったりなんかしたら白石は死んでしまうかもしれない。何度も自問自答を繰り返した。
俺さえ居なければ白石は助かる。
─いっそこのまま俺が死んでしまえば
フとそんな考えが頭を過った瞬間、謙也、と名前を呼ばれた。白石の声に酷似したものだった。まさかと思い辺りを見回したが案の定白石の姿は無かった。だが変わりに千歳の姿があった。
「なんしに来たんや…」
「…もう気付いとう?」
「俺が白石を苦しめよったことやろ…」
千歳は複雑そうな顔をして首を縦に振った。千歳は最初から全部気付いていた。いや、気付いていたからこそ昨日白石と2人っきりで話したのかも知れない。何を話したかはしらないが、きっとこの事だろう。
「そんで、どないせえって言うねん…」
千歳は視線を泳がせはっきりとしなさそうに口を開いた。
「……力…どげんかすることできっかもしれんけん」
告げた千歳はどこか不安げな表情を浮かべていた。