校舎一帯を探し歩いたが、一目で分かる長身の男の姿は無かった。残るは旧校舎だけだった。まさかそこにはいないだろうと白石と顔を見合わせて話した。
また、明日探そうかという話しになり引き換えそうとした瞬間、脳内に直接叩き込まれるような衝撃が走った。その衝撃が余りにも強力でその場に崩れ込むように倒れた。
「謙也!?」
白石が心配そうに駆け寄ってくる声を聞きながら、もう一つ声が聞こえてくることに気づいた。
───き…っ……ゃ
「…な…ん?」
───きュう…こうシャ…
プツリと音を立てるように言葉は遮断された。
途切れ途切れに聞こえた声は確かに旧校舎と言った。何が有るのかはわからない。ただ直感したことは"千歳千里"がいるということ。
「白石…旧校舎におる」
白石は目を丸くして驚いていたが、すぐに旧校舎へ一緒に向かってくれた。
ほぼ廃墟と化した旧校舎は薄気味悪いものだった。一歩一歩歩くごとにギシっと音を立てる。埃っぽい匂いが鼻をつついた。
俺は旧校舎に入ってすぐ感じた"違和感"追うように歩を進めた。後ろからついてくる白石はやはりどこか元気がない。
違和感を一番感じ取れる場所は図書室と書かれた教室だった。恐る恐るドアを開けると、やはりそこにいたのは───
「早かね〜」
「…よく言うわ。あの声、お前が送ってきたんとちゃうんか」
「ばってん探しやすかっとう?」
「でも、もうアレはいらん。頭が痛い…」
「慣れれば痛くなかよ」
にこにこと機嫌良さそうに笑うのは探し求めていた千歳千里。意味の分からないであろう会話を理解しようと頑張っている白石に気がついて、先ほど起こったことを簡潔に話す。
「せやったんか…謙也いきなり倒れるしどこか悪したんかと思ったわ」
「すまん、心配かけて…」
「いや、謙也に何もないんやったら俺はそれだけでええ」
優しく笑ってくれる白石はどこか元気がない。心配をしてくれる白石には悪いが、俺なんかの心配より自分の心配をして欲しかった。
「千歳、簡潔に聞くけどお前も異質なんやろ」
千歳は躊躇いもなくこくりと頷き肯定を意味した。始めて見た仲間だったからか、妙な安心感が沸いてきた。
「ばってん、謙也くんと」
「謙也でええ」
「あ、そう…謙也と俺とは種類がちごうとる」
「種類…?」
「謙也のはサイコメトライズ」
「サイコメトライズ…?」
「サイコメトリーって聞いたことなか?」
「ある…」
テレビの中だけの話だと思っていた力がまさか自分もだとは思ったことがなかった。千歳は理解したのを確認して出来るだけ分かりやすく説明をしてくれだ。
「俺はテレパシー。だけん声が送れた」
「…なんであそこにおるってわかったん?」
「ああ…それは千里眼たい」
「千里眼…」
「本来なら数キロば離れた所でも見えるはずばってん、片目しか千里眼ば見えん上に視力を強制的に落としとるけん頑張っても数十メートル先しか見えんと」
「なんで…」
「あんま見えすぎてもいいもんやなかと」
少し悲しそうに眉を潜めて笑う姿から千歳も俺と一緒の思いをしていたのかと感じ取った。
千歳は本題は俺だと言わんばかりに達者に口を動かせた。
「今の謙也の場合は相手ん気持ちが読めるばってん本当の力は扱えてなか。集中すれば謙也の力は"物の過去や触った者の過去"も見ることができっとよ」
「ほんまに…」
「だけん、あんまりおすすめできんと」
「やったら何で話したん?」
「もし、そういう場合になったとき困らんようにするためっちゃね」
「おおきに…」
よかよかと柔らかく笑って見せた。千歳はいい奴だった。先ほどまで感じていた違和感はいつの間にか溶け込んでいた。千歳はまた困ったことがあったらいつでも聞いてきていいと、また柔らかく笑った。話が終わると千歳の視線は白石へ向けられた。
「謙也、ちょいと席を外してもらってもよか?」
「あ、ええよ」
そこん白いのは残しとって、と言われ図書室に白石と千歳を残し旧校舎の玄関へ出た。
白石は大丈夫だろうか、そんなことを考えながらいつの間にか曇天になった雲を眺めた。