あの告白から次の日。
白石と話すことは無かった。というよりも、白石が完全に腹を立てて(当たり前だが)話しかけて来ようとはしなかった。昼食時にあの女の子が白石を誘いに来て連れていかれてたときは、やはりお似合いだな、と思った。同時に心がズキリと痛んだが、俺のことはどうでもいい。白石の為だから。
重い腰を持ち上げ学食へ向かった。久々の学食だった為、少し手間取ったがなんとか自分の食べたい物を注文することはできた。しかし、1人で食べるはさすがに虚しいものだと思った。さてどうしたものかと辺りを見回すと、今日は思い人が忙しいのか珍しく1人で食べている人物を見つける。
「隣ええか?」
「どぞ…って謙也か」
「なんや、今日は小春にフラれたんか?」
冗談半分で言ったものだったがどうやら図星のようで、ユウジは箸を止め俯いた。
「俺は小春が好きなのにぃ…小春がウザいって…」
「あーあーもうええわ。変な質問してスマンかったな」
このままでは、じめじめしたユウジと話さなくなる。その前に早めに話を切ったが一度下がった気分は盛り上がらないようで、うじうじじめじめと小春の名を呟き始めた。しかし、すぐに何かを思い出したかのように顔を上げ辺りを見回した。どないしたんや?そう聞くと物珍しそうな顔で俺を見てきた。
「白石は?」
「…えっと、今日は忙しいみたいやな」
「忙しいゆうても、白石なら謙也の為に昼食の時間くらい作るんとちゃうか?」
「白石かて忙しいときはあるわ…」
そか、とユウジは呟いたもののどこか納得いかないような表情を浮かべていた。何が納得いかないのか、と聞きたかったが逆に自分でボロを出してしまいそうだったので、出そうになった言葉を飲み込んだ。
しかし、ボロは別の方法で出てしまった。
「謙也くん!!」
「友香里ちゃん…?」
「くーちゃんと別れたん!?」
いきなり暴露されたことに、ヤバイと思った瞬間にはユウジは目を丸くして驚いていた。
「さっき同じクラスの朋子ちゃんと歩きよったし、しかも昨日帰って来てからメッチャ不機嫌やったし」
「おい、嘘やろ謙也?」
「あ、えと、ちゃうねん…その」
どこか不安そうな顔で聞いてくる2人に押し負けて、昨日の出来事を話すと、ユウジは呆れたと言わんばかりの顔、そして友香里ちゃんは嬉しそうな顔をしていた。まず最初に口を開いたのはユウジだった。
「アホやな、ほんまアホやお前は。もうナニワのアホスターでええんとちゃうか?このアホ」
「そこまでアホアホ言わんでもええやろ」
「いや、アホや。お前は世界一のアホや!俺が謙也やったら帰れゆうて追い払うっちゅーねん!白石でもそうしとったわ!」
断言するように言い放つユウジは珍しく男前のようだった。しかし、俺だって色々考えた結果な訳でそこまで断言されると少し後悔してしまう。
「いや、でも…」
「でももなんもない!そら白石かて怒って帰るわ!好きな人から「浮気してもええよ、そんであっちの子が良かったら別れよ」なんて言われてみ、辛いに決まっとるやん…」
「……」
どこか感情移入をしながら熱弁するユウジは白石を理解したような口振りだった。そう考えていると、ユウジは考えを読み取ったか否か口を開いた。
「俺、多分白石と恋愛に関しては似とるとこがある思う。せやからよう分かんねん」
「せやけど…俺、白石不幸にすると思う…白石はイケメンやし、可愛い女の子とかとおる方がええと思う……それに友香里ちゃんかて兄ちゃんがホモより女の子と付き合っとる方が嬉しいよな」
「へ、なんで?」
ニコニコと嬉しそうに笑っていたものだから、別れてもらいたいと思われていたのかと思っていたが、どうやら予想は外れたようだった。嬉しそうに語る由香里ちゃんを見てそう確信した。
「そんなこと無いって、謙也くんとくーちゃんが付き合いよんのは嬉しいで。やって、ウチ2人とも好きやし。くーちゃん、謙也くんと電話しよるときとか遊びに行くとき凄い幸せそうやで」
「え…」
知らなかった。だって、自分とデートしたり電話するときはいつも余裕があって、意識している自分が毎回馬鹿らしかったのに。妹から語られる白石はどれも俺の見たことのない白石だった。しかし俺は沸き上がってくる後悔や罪悪感に狼狽えることしかできなかった。
「どないしよ…おれ…」
「大丈夫!くーちゃんが嫌いになった訳やなくて、好きやからこそ、そないなこと言ったんやろ?それ聞いたらめっちゃ喜ぶと思うで」
「ほんま?」
「ほんま!くーちゃん変態やけどええ人やから仲良うしたってな」
ニコリと笑う姿はやはり兄妹だからだろうか、兄と被るものがあった。友香里ちゃんからの一押しに答えるように白石を探す為に足が動き始めた。