「頑張りや朋子」
「…でも」
「白石先輩と足の速い人だけやん、チャンスやって!」

自分達の歩く後ろの方で聞こえてくる声に耳を傾ける。女子がこちらを見てざわざわと騒いでいる。声を小さくして喋っているようだが残念ながら丸聞こえだ。その理由も分かる。隣で何事も無いかのようにしている男のせいだ。嫌と言うほど見てきたこの光景にもさすがに慣れてきた。それにしても、俺の呼び方が「足の速い人」と言うのは聞き捨てならない。どうも話を聞いてると後輩のようで、俺は後輩から足の速い人呼ばわりされているのか。なんとも言えない気分だ。
そうこうつまらないことを考えている内に、いつの間にか決心をしたのか、可愛らしい女の子が目の前に立っていた。

「白石先輩!!あ、あの好きです!もし良かったら付き合ってください」

ふるふると体を震わせて一生懸命思いを伝える様子は可愛いが、どうやら俺はアウトオブ眼中で俺が隣にいる中で告白をした。こんなシチュエーションは初めてだ。しかし、白石は慣れた様子で「ごめんな」と申し訳なさそうに断った。しかし、目の前の女の子はそれに返事を返さず白石の左手を掴んだ。

「私、白石先輩に尽くしますんでお願いします!」
「そがいなこと言われても…」
「1週間!1週間でいいんで、私と試しに付き合いませんか?」
「いや…だから…」

食い下がることなく女の子は白石の左手を掴み、叫ぶように告白を続ける。逆に引き下がっている白石はどうしたものかと目を泳がせていた。しかしその表情も次の俺の発言により驚きのものへと変わった。

「ええんやない、1週間付き合ったれや白石」
「謙也…?」
「ほな決まりですね!明日からよろしくお願いします白石先輩!」

嬉しそうに女の子達の中に戻っていく様子を見送りながら白石が怒気を含んだ声で小さく俺の名を呟いた。ああ、久々に怒った声を聞いたな。どこか頭の隅でそう考えていると男はこちらを睨んで立っていた。

「なんであんなこと言ったんや」
「ああ言わんと引き下がってくれんかったやろ」
「ほな、俺が浮気してもええってことか?」
「浮気…か。白石が1週間あの女の子と付き合ってもし女の子のことを好きになったんやったら、別れてもええで」
「なんやそれ…謙也にとって俺はそないな簡単な存在やったんか」
「……」
「もうええわ」

白石は話しにならないと言わんばかりに言い捨て去っていった。去っていく背中を見つめて、これでよかったんだ、と自分に言い聞かせた。


白石の容姿は男でも軽く惚れてしまうほどのものだった。その上頭も良く、運動神経も良い、完璧を体現したような男だ。そんな白石に俺が釣り合う訳がないと感じたのは、俺が白石を好きだと実感したとき。そして、白石のような完璧な奴は可愛らしい彼女を作って将来は結婚して幸せになるのが当たり前だと思った。俺は、白石の人生の半分を潰している気分になっていた。
白石と思い通じ付き合い始めたからは、ずっと罪悪感に押し潰されそうな気分だったが、それ以上にその事を忘れ去るくらい幸せだったのは事実だっだ。
今日の可愛らしい女の子といる白石の姿は俺から見るとかなり釣り合うものだった。正直な話、かなり焦った。しかし同時にこれは白石にとってのチャンスだと焦る気持ちの中考えた。
そうして出た言葉があれだった。白石に睨まれようと怒られようと今は上手くいかないかもしれないが将来は必ず上手く行くと痛む心で考えた。









つづく





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