「ユーリ・ローウェル…一体これで何回目だと思っているんだ」
「さあ?」
「15回目だ!いつまでケンカする気なんだ!!」
双方の蒼い瞳はキッと目の前の男を睨んだ。だが睨まれた男─ユーリは睨まれても全く怯まず、ヘラヘラと笑って見せた。もちろんその行為は反感を買って、よりいっそう眉間にシワを寄せた。
「ちゃんと聞け!」
「聞いてますって。ほらだってこの部屋俺と生徒会長さんしかいない訳だし、嫌でも聞こえるっつーか」
敢えて相手を逆撫でするような口調で話す。こんな分かりきった挑発に毎度毎度乗ってしまうのが生徒会長と呼ばれた男、フレン・シーフォである。
彼は頭がいい。校内模試でも入学してからずっと首位を守りきっている。そう頭は良いのだ。だが、頭が堅過ぎてどちらかというと単純に出来ている。ユーリは何度も呼び出される内に、フレンがどうすれば怒るか、フレンがどうすれば反論してこないか、全てが手に取るようにわかっていた。いちいち反応が面白いフレンをユーリは毎回呼び出されては手のひらで転がすようにからかう。
「僕をおちょくるのもいい加減にしろ!!」
「僕口調になってますよー生徒会長さーん」
「くっ…!!」
間延びするような声で馬鹿にすると、フレンは顔を真っ赤にして押し黙った。
フレンは、真面目な性格故か生徒会長という任に着いてからは『私』という一人称を使い始めた。最初の頃こそは慣れずに『僕』と時々ボロを出していたが、月日が経つにつれて『私』が定着しつつあった。だが激昂したりすると自然に『僕』と言葉が零れ落ちてしまうのは直せなかった。しかし、元々穏やかな性格をした彼が激昂することなど、普通に生活をしていたらまず無いだろう。だが、ユーリという男はフレンの逆鱗にわざと触れる。そのため単純なフレンはそれに引っ掛かりついボロを出してしまう。
「君は真面目にすることをそろそろ覚えたらどうだい!」
「じゃあ生徒会長さんはその石頭を柔らかくする方法を覚えた方がいいんじゃないんですかね」
「なんだとっ!!」
フレンは、今にも掴み掛かりそうな勢いで怒鳴る。ああおもしろい。ユーリは思わず口から零れそうになる言葉を寸止めで飲み込む。
顔を真っ赤にして目に涙を溜めムキになった姿はユーリが一番好むモノだった。しかし、フレンは目に溜まった涙を乱暴に拭き取り落ち着きを取り戻すように小さく深呼吸をした。ユーリは少し驚いた。いつもならここで、もう帰ってくれ!と叫ぶ場面なのだが、今日は様子が違う。
「そういえば…君、ケンカ以外にも色々やってるらしいね」
「なんのことだか、さっぱりわかんねーな」
「と、とぼけるのもいい加減にしろ!僕はこの目でちゃんと見たんだからな!」
「へえー見たんだ。じゃあ何をしてたか言ってみな生徒会長さん」
「なっ…」
瞬間、フレンの頬は怒りとは違う赤に染められた。初々しい反応にユーリは厭らしくニヤニヤと笑った。その時フレンは気づいた。こいつ確信犯だ、と。
「わざと…僕に見せつけるようにやったな…」
「だから俺は何のことかわかんなねーんだってば」
「嘘つき…」
「え?なんか言ったか生徒会長さん?」
フレンは悔しくなって下唇をギュッと噛み締めた。ああこの顔もそそるな、と厭らしいユーリの視線には全く気付かず。フレンは意を決したかのように、ドンと目の前の机を力一杯叩いた。もちろん、ユーリがそんな行為で怯むことがないことなど承知の上だが。顔を俯かせたまま細々と声を漏らした。
「き…君が旧校舎で…じょ女子と…不埒な行為を及んだことを僕は…」
「不埒ってなんですか生徒会長さん。俺、頭悪いんでわかんねーわ」
余裕の無いフレンとは真逆に余裕有り気に茶化すユーリは真底楽しそうな顔をしていた。フレンは羞恥や惨めに押し潰されそうになっているが、ここで押し負けては余計惨めになることは分かっていた。今にも逃げ出したい気持ちを抑え、目の前の男に視線を合わせる。ユーリはゾクリとした。悪寒ではない、もっと性的な何かが背筋を走った。
(ああこの目だ…堪らない)
歪む唇を抑え、フレンの瞳をのぞきこむ。
「君が女の子とセッ…セックスをし…していたのを僕は見たんだ」
18にもなろう男が何を今さら恥ずかしがっているのか。ユーリはわかった上でそれがおもしろくて仕方なかった。
(もっと…もっとだ。この唇からもっと厭らしい言葉、声を…)
高まる性欲は完全にフレンへ向けられたモノだった。そんなことにも気付かず言い切った後の恥ずかしさに耳まで赤く染めたフレンは真下の机を睨み付けていた。
「で、生徒会長さんは何が言いたい訳よ…俺の女遊びを止めたいのか?それとも不埒な行為に対するお叱りか?」
「…どっちもだ」
「だったら簡単な話をしてやろうか」
アンタが相手をしてくれよ。
囁かれた甘い毒にフレンは目眩を覚えた。男を直視できない。フレンは直感した。
見たら──呑まれてしまう。
痺れを切らしたユーリはフレンの顎に指を絡ませ強引に視線を合わせた。フレンの脳内でサイレンが鳴り響く。逃げろ逃げろ呑まれるぞ。瞬間、合わせられた唇に全てが持っていかれた。サイレンが止んだ。
ああ、もう逃げられない。
・・・
「またなフレン」
羊は狼に捕まった
fin
あれなんかちょっと色々待て(^q^)
とりあえずユリフレ好きすぎて爆発できる