今日は珍しく部活が休みだった。貴重な休日を、家で過ごす者もいれば家族と出掛けたりする者もいる、そして意気揚々とデートに出掛けたりする者もいる。俺は後者だった。と言っても、端から仲良く見れば遊びに行っているとしか見られないだろう。なんせ相手が男なのだから。同じ学年で同じ部活、しかも女子の間では王子様やら高嶺の花やらといつも注目を浴びている白石蔵ノ介。ただ、遊びに行く感覚と違うのは、珍しく自分の身なりを気にしたり、やたらとそわそわしたり、相手を気遣ったり、と少しばかりややこしくなる。隣を歩く男を横目で見れば綺麗な顔立ちがにこりと笑った。俺と違って余裕があった。意識しているのは自分だけみたいで、馬鹿らしくなった。
最初に告白したのは俺だった。恋人という関係になる前からずっと仲は良かった。そしてずっと白石に片想いをしていた。自分でもまさか告白をするなんて思わなかった。今でも、あの情景は覚えてる。放課後の教室で2人っきりになったときに、何を思ってか「白石が好きやねん」と口走っていた。昔、従兄弟の侑士が放課後の教室での告白はベタなシチュエーションNo.1だと恋愛小説片手に語っていた気がする。まさに俺はベタなシチュエーションで告白していた。相手は男だが。目の前の男はポカンとしていたが、そんなのに気を使ってる余裕は無く、続けて消え入りそうな声で「付き合ってほしい」と無理難題をぶつけた。人は追い込まれると何をするか分からない、というのを身を持って実感した。言い終わった後に襲ってきたのは、酷い後悔だった。言ってしまった、友達という関係も崩れてしまった、もう話さえもしてくれなくなる。気づいた時には涙が両頬を伝っていた。白石は一層目を丸くした。情けないやら、恥ずかしいやらで涙は止まるどころかぼろぼろと流れ落ちてくる。
「謙也…」
「すまん…今の忘れてや…」
一刻も早くその場から立ち去りたかった。が、それは白石によって遮られた。いきなり感じた腕への温もりに目をやると、包帯を巻かれた手がギュッと腕を握りしめていた。何事かと思い、目の前の男を見ると嬉しそうに目を細めて笑っていた。俺の大好きな笑顔だった。
「俺も謙也のことが好きや」
「……え」
「せやから、好きやねん」
付き合おう
夢かと思った。ずっと片想いだと思っていた相手がまさか自分の想いに答えてくれるなんて、全く持って予想外だった。目からは嬉し涙がぼろぼろと零れた。
今思えば、なんともグダグダな告白劇だったのだろうか。侑士に話したら笑われそうなのでまだ報告はしていない。そんなグダグダな告白を得て今に至るわけだが。今にも漏れだしてきそうな溜め息をグッとこらえる。
「せや謙也、喉かわかへん?」
「えっ、あー…少し渇いたかもしれへん」
「ちょいそこに座っといてや、買ってくるわ」
「はよ帰ってきてや…」
人混みの中に消えていく白石を目で追いながら、取り残された俺は消え入りそうな声でポツリと呟いた。
しかし、10分経っても白石が帰ってくる気配はしなかった。ジュース一本買ってくるのにこの時間はいくらなんでも遅すぎる。どこかで事故にあったのだろうか、心配になって辺りを見回すが白石の姿はどこにも無かった。居ても立ってもいられなくなって、人混みの中へと歩を進めた。元から、待つという行為事態が苦手な性格だからと言うのもあったが。人混みの中を進んで、数十メートル先にある自販機の前で見慣れた男の姿を見つけた。
「しらいっ…」
言葉が詰まった。白石の周りには見たこと無い女性が2人立っていた。ああ、"また"逆ナンか。すぐに理解は出来た。白石は容姿がいいせいでよく逆ナンに合う、これが初めての光景ではない。付き合う前もよく目にしていた。大抵は慣れた様子でやんわりと断るのだが、相手がしつこいときは長引く場合があると苦笑いを交えながら白石が話していたのを思い出した。遠巻きに見ても白石が困っているというのは一目瞭然だった。助けてやりたいのは山々だが、どう助けに入ればいいのか今の自分には分からない。俺が女だったら、私の彼氏だからさわらないで、と可愛らしいことが言えるかも知れないが、いかんせん自分は男だからその台詞は言えない。少し歩を進め近づくと、女のキンキンと高い声が聴こえてきた。話の内容はよく聞き取れないが、そんなことより目に入ったのが白石に触れる手だった。ベタベタと白石に触れる手を今すぐ剥ぎ取りに行きたかった。俺の物だと主張したかった。でも、できない。言葉で主張できる自信がないから?1つの疑問は俺の体を縛りつけ動けなくした。遠巻きでしかその状況を見つめることができない状況に情けなくて泣きたくなった。
「中3とかギャグやろ?」
「その手なんで包帯まいとん?」
その手に触るな。その手に触っていいのは俺だけなのに。イライラする。醜い嫉妬がぐるぐる渦巻く。
気づいたときには足を進めていた。先ほどの迷いなど地平線の彼方にぶっ飛んでいた。
「白石に触んなや!」
「謙也…!?」
「ちょっ…なんやねんこの子!」
「うっさいわ!!」
一喝し、白石の左腕を掴みその場から逃げた。ずんずんと何処にたどり着くか分からないままがむしゃらに足を進めた。一時すると息も上がってきた、いくら走ったかさえ分からない。だが、白石の腕を掴む手は一向に緩む気配は無かった。
「…謙也!」
自分を呼ぶ白石の声にハッとして足を止めた。辺りは人通りの少ない路地裏だった。どこやねん、と呟いたのは迷い込んだ張本人の俺だった。瞬間、サアアアアと血の気が引いていくのがわかった。完全に頭は覚めきった。怖くて白石を顔が見ることがない。やっぱり追い込まれると何を仕出かすか分からない。
「…すまん」
「なんで謝んねん。寧ろ俺の方が謝らんといかんくらいやっちゅーのに」
「別に白石が好き好んで逆ナンにあったわけちゃうやん!せやから…その…」
「すまん、は無しやで」
「………」
「ほっといてごめんな。不謹慎かもしれんけど嬉しかってん…謙也が俺のもんやゆうてくれて、ほんま嬉しかった」
白石の優しい声に涙腺が緩んだ。俺はこんなに嫉妬深くて汚いのに、白石の声はどこまでも優しかった。声だけじゃない、今は見えないが顔だって行動だって言動だって全てが優しい。
「おおきに」
そうだ…この笑顔に惚れたんだ。
改めて自覚をすると、なんとも自分は単純なんだろうか。ああ、でもそれで良かったのかも知れない。
だってこんなに素敵な人を好きになれたのだから。
「俺、嫉妬深いから白石を束縛するで…」
「おん」
「あんま女の人に触られたらアカン」
「わかった」
「それから…逆ナンに合ったらはよ逃げや」
「わかった」
「あとな白石…」
俺だけを見とって
「もちろん」
繋がれた手は暖かった。
fin
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藤子様へ捧げます!
相互ありがとうございました!そして遅くなって申し訳ございません><うおおしかも最後gdgdに…(´;ω;`)
甘甘を目指そうとしたのですがとても嫉妬深い謙也に/(^o^)\ひええ
よろしければ貰ってください。
これからもよろしくお願いいたします。