いつから謙也にちょっかいを掛け始めたのだろうか。

駅のホームの椅子に座り、ぼんやりと規則的に過ぎていく電車を眺めながら考える。

最初っから仲は悪くなかった気がする。そうだ、最初にあったころはそれなりに仲が良かった。今の日常に慣れてるせいで昔の記憶すら霧がかった曖昧なものになっている。


ああ、そうか。
最初はただ仲良くなりたかっただけだったんだ──




入学式。
空は快晴、だが残念なことに桜は一昨日の豪雨で散っていた。しかし何本かは生き残っていたようで桜の下で写真を撮る家族が結構いた。
式は案外短調に終わった。視線だけを泳がせながら周りの面子を見たが、中学の入学式に金髪で乗り込んで来ている奴とは仲良くできないな、と直感した。
式が終わって、ふらふらと何処と無く校内を歩き回っていると運動場の方からポーンとボールを打つ音が聞こえた。

(テニス…!)

音の鳴る方へ急ぎ足で向かった。ジュニアの頃からテニスをしていた。この学校に入るのを決めたのも地元では強豪校と名高いテニス部に入る為だった。グラウンドへ向かったが広すぎる校舎で迷ってしまい。まだ微かに聞こえるボールの音を追って探し当てようとするが、姿は見えない。どうしたものかと、グラウンドをさ迷っていると後ろから「なあ」と声を掛けられた。辺りを確認したら自分しか居なかったので、自分に話しかけられているのかと気づいたのはワンテンポ遅れてから。呼ばれた方を見ると、そこには絶対仲良くできないと先ほど思ったばかりの金髪の少年。

「白石蔵ノ介くんやろ?」

ニコニコと笑う姿は、厳ついモノではなく無邪気に笑う子供のそれだった。その姿に少し安堵した。しかし、何で俺の名前を知っているのだろうか、聞こうと思ったがその前に金髪の少年が口を開いた。

「テニス部探しよんとちゃう?」
「…なんで知っとん?」
「だって有名やん!去年のテニスの試合で優勝しとったやろ!」

少年はバッグの中からおもむろに雑誌を取りだし目の前へ広げた。確かにそれには俺の姿と名前が書かれていた。いつのことだと記憶を辿っていくと10ヶ月前に受けた取材を思い浮かべた。少年は俺が確認したのを見てパンッと勢いよく雑誌を閉じた。

「今日は出血大量大サービスでこの忍足謙也がナビゲーターしちゃるわ!」
「ども…」

最初は変わった奴だと思った。忍足謙也と名乗る少年は満足そうに鼻唄を歌いながらナビをしてくれた。時折、自分家のイグアナの話や従兄弟の話、そして自分もテニス部に入るんだという話をしてくれた。余りに楽しそうに話してくれるものだから聞いているこっちまで楽しくなっていた。

「あ、ここがテニス部部室であそこがテニスコートな!ほな、俺は親のとこ帰るわ」
「あ、おおきに!」

謙也は満足そうに「ほなまた!」と手が引きちぎれんばかりに手を降って笑って去っていった。
だんだんと見えなくなっていく姿に名残惜しいと思いながらもテニス部へ向かった。案内をしてくれる間だけだったが、随分と話をした気がする。

また今度お礼を言っておかないと。
またゆっくり話をしてみよう。
また一緒に────



このとき俺は『また』なんて来ないことにまだ気がついてなかった。











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