昨日、白石からキス…否、嫌がらせを受け、俺は情けなくも学校を休んでしまった。昨夜は一睡もできなかった。目を瞑ると鮮明にあの時の光景が瞼の裏に写し出される。熱っぽい白石の視線や、熱い唇、自分でも聞いたことがなかった甘ったるい自身の声。思い出すと下腹の辺りがじわりと熱くなる。健康男児な自分の体に嫌気がさす。全部、白石蔵ノ介のせいだ。
はぁと重苦しい溜め息が虚しく1人っきりの部屋に響く。なんだか余計に、悲しくなって布団の中に潜り込んだ。
「ファーストキスやったのに…」
溜め息と涙声が混ざった情けない自分の声がポツリと漏れる。あんな男のことをすぐに忘れられない自分が本当に情けない。
一番消したいことなのに。
〜〜〜♪
机の上に置いていた携帯が鳴り響いた。のそのそと重たい体を動かし机の上の携帯を掴む。携帯を開くとディスプレイには千歳千里と流れていた。
「もしもし…」
『謙也?今どこにおんね?』
いつもの、のんびりとした千歳の声を聞くと安心感だろうか、スッと心が軽くなったような気がした。
「スマンな千歳、今日学校休んどんや」
『なして?』
「……風邪?」
『訊かれても困るばい。…なんかあったとね?』
「……」
『……今から謙也ん家いってもよかね?』
「…でも……」
『心配なか、すぐ来っけん』
電話越しから声は消え、聞こえてくるのはツーツーと通話の終了を知らせるものだった。ディスプレイには通話切断の文字。いつものんびりしている癖にやけに勘が鋭いな、と少し感心した。同時に、心が少し暖まった気がした。
(千歳はええ奴やな…)
どっかの誰かとは違って。
また嫌なことを思い出した。忘れろ忘れろと頭を横に降った。なんであんな最低な奴をなんで思い出さないといけないんだ。脳裏に浮かぶ白石を抹消しようと心掛けようとしたが、変に意識してなかなか消えてくれない。
ああクソやっぱりキライだ