勢い余って出てきたのはいいけど、この後どうするかまでは考えて居なかった。
ポケットに入っているのは、財布だけ。携帯を持ってこなかったのはある意味正解かもしれない。あんなのを持っていたら自分がどこにいるかなど、GPSですぐに見つけ出されてしまうだろう。
どこかで、泊まろうかと思ったが、そんな気にもなれず、せっかく今日は自由なのだから夜の街をブラブラと歩くことにした。
人通りの多い街中を歩いていると、歳上の女性だろうか、けばけばしい化粧をした女性が話しかけてきた。
「お兄さん、今1人?」
「……」
「今夜一緒にどう?」
胸を押し付けられて耳元で囁かれた。ゾゾゾと悪寒がした。気分が悪くなって、その場を走って逃げ出した。
(なんやこれ…街ってこないなんか!?)
息切れがするほど走りきり、気づいたら来たことも見たこともない道に出ていた。しかし、そこは先ほどとは違って人通りも少なく、周りは外灯と家ばかりだった。自分は、どれだけ走ったのだろうか。はぁはぁと息絶え絶えに周りを見渡し、どかりと地面に座り込む。
「つ…疲れた…」
バクバクと鳴る心臓は、走り回ったからだけではない。未知なる期待に対する好奇心と夢にみで見た自由が目の前にあるからだ。
フと緊張の糸が途切れると、次に襲ってきたのは眠気だった。毎晩毎晩、勉強やらパーティーやらディナーやらでゆっくり休める日が無かった気がする。うとうとと今にも眠ってしまいまいそうな意識を、なんとか保とうとしたが睡魔には勝てなかった。
「もしもーし」
男の声が聞こえた気がした。