「変態」という言葉を聞けば、みんなは何を想像するだろう。
露出狂、妄想壁、セクハラ、ストーカー、M男、色々と想像できたのではないだろうか。
さて、俺の友人に所謂変態と呼ばれる部類の人間が居るわけだが、どう対処すればいいと思う?
「来ちゃった☆」
「・・・」
「え、なんで目逸らすん?あ、もしかして好きな人に朝から会って緊張して話せんとかっていう少女漫画的展開?えっ俺めっちゃ大好物なシチュエーションなんやけど!謙也に届け!」
「妄想と現実をごっちゃごちゃにすんなや。てかここ俺んち!偶然もへったくれもないやろ!」
その友人というのは、こいつ、白石蔵ノ介。毎日俺の家の近くに朝から張り込んで、親と弟が居なくなったのを見計らって現れる。しかも、今日は休日だ。親は仕事で病院に出ているし、弟は友達と映画を観に行くとかで朝早くに出て行った。そして,玄関を開ければどや顔の男が立っているのだから何も言えない。十回に一回の確率で全裸で現れる男に、今日はまだ服を着てるだけマシだと安堵した自分は中々重症だと思う。勿論その度に通報しようとしているのだが、脱ぐ速度が速ければ着る速度も速い、こいつはプロの変態だった。
学校では、イケメンだのかっこいいだの完璧だのと、持て囃されてはいるが蓋を開ければこいつはただの変態だ。最初出会ったときはこんな奴ではなかった筈だ。俺だって、最初こそはかっこいいとかって言って褒め称えてた一人だった。
それが気付いたら俺のストーカーになっているんだから笑えない。
「ちゅーか、なんやねん。今日は部活お昼からやないんか?」
「お昼まで謙也の姿拝めへんとかありえへん」
「俺はできれば一生白石の顔拝みたないけどな!」
「おおきに!」
何に対してのお礼だとつっ込みたかったが、あまり構うと調子に乗るので言葉を呑み込んだ。
こいつは絶対、この性格…いや性癖のせいで損をしている。自分でそれに全く気付いていないのだから救えない。
「寝起き謙也かわええはぁはぁ…」
「とりあえず鼻血拭けや…話はそれからや」
「今後の俺と謙也の結婚生活について?」
「頭大丈夫か?」
大丈夫ではないことは、もうずっと前から知ってる。多分、病院だって裸足で逃げ出すと思う。
玄関先でこのまま屯って、近所の人にこの会話を聞かれて変な噂を立てられても嫌なので、しぶしぶ家に入れ込んだ。「謙也の匂いがする!俺今謙也に包まれとる!」と後ろから興奮した声が聞こえたが、あえて聞かなかったことにした。
リビングのソファに適当に座らし、とりあえず物色しないようにと一度注意を入れたが、完全に目が部屋の隅から隅までを観察していたので言っても無駄だということに気が付いた。くるっとこちらに顔を向けたかと思えば、伺うような口調で喋り出した。どうせろくでもないことなのだろうが。
「謙也の部屋に入りたいんですが」
「…あかん」
「覗くだけなら…」
「あかん」
「せめて匂いだけでも」
「あ・か・ん!」
ああ、そうですか。と少し声のトーンを下げ白石は顔を俯かせた。
「お前、勘違いしとんやないやろうな?白石を俺んちに入れたんは外で変なこと言って騒がせんためで、ましてや部屋の中を物色させるために入れたんとちゃうで。」
「え、俺誘われとったんとちゃうの?」
「むしろ、どうやったらその答えに辿り付いたか教えてほしいんやけど」
え、聞きたいん?と厭らしくにやつかせた顔に腹が立ったので、白石の座ってるソファを蹴りつけると嬉しそうに気持ち悪い声を上げた。
フと、リビングの窓から見える外に目を向けると、いつの間に振り出したのだろうか雨がザーザーと激しく音を鳴らしていた。これでは、午後の部活が潰れてしまう。
それに気付いた白石が、
「あ、午後からもお世話になります。」
と楽しげに笑ったので、大きく溜息を吐き返した。