バイトが終わってクタクタの身体にムチを打って帰宅すると、倒れるようにソファに飛びこむ。
携帯をポケットから引っ張りだし、ディスプレイを開くとメール7件と不在2件、そして留守電1件の文字が浮かび上がる。なんでこんなに、と携帯の日付を見るといつの間にか時間は0時を回っていて日付を跨いでいた。
「ああ、誕生日か…」
発せられた言葉には、徒労の色しか見られずメールを開く元気すらなかった。悪いなあ、と思いながらソファの横に携帯を持った腕ごとだらんと落とすと、ピッと誤ってボタンを押してしまい、機械音混じりの声がした。
『誕生日おめでとう』
留守電に入っていた、その一言。
寝そべっていた身体を座らせディスプレイを確認する。
090─と続けられた番号に見覚えはなかったが、その声には聞き覚えがあって胸の鼓動が早くなる。
音信不通になって2年。別れてから3年。
元恋人からのものだった。
相変わらずの甘さを含めた優しい声に、変わってないなあ、と小さく安堵の息を吐いた。
「元気にしとんやろか…」
誰かが答えてくれる筈もなく、その呟きは一人の部屋に静かに消えていく。
別れが最悪だったのは覚えている。所謂、ケンカ別れというやつで。それまで、ケンカも言い合いもしたことがないくらいだったのに、小さなことが発端でいつの間にか大喧嘩になっていて、「別れる」と投げ捨てるように言ったのが最後。お互い取り消す訳にもいかなくてずるずると引きずったまま終わっていた。
元々高校は違って、どちらかが番号を変えてしまえば、実家か学校に出向く他連絡を取れる術はなかった。
そして、今。どうやって番号を知ったのかは知らないが、それよりもどうして連絡をとってきたのかわからなかった。
ボタンを一押しするだけでかけることができるが、親指は情けなくも動こうとはしなかった。
「どないせえっちゅうねん…」
うだうだ考えていると疲れがどっと増えたような気がして、もどかしくなって通話ボタンを押した。
どうにでもなってしまえ。
半場、自棄になって吐き出された言葉はなんとも情けないものだった。